069.世界最強之挑戦(5)
カスンッ、と乾いたダンボールが擦れあう音と共にその入り口は開かれた。
「……なんだ」
そもそもベッドに誰か居るのだから、期待はしていなかった。
無造作に足元のデバイスに脱ぎ散らかされたデバイス群を目にして、フリーズしたRLをプレイしていたであろう人物は既にデバイスを脱ぎ捨てふて寝をしているといったところだろう。
無遠慮とは百も承知、ここまできて声をかけない訳はいかない。
ふふ、とんだ犯罪行為だ。
自身の行いがぶっ飛んでいるとは理解していても、どうにも罪悪感など一切湧きあがらない。
つまるところ、RPGなどで他人の家を探索しても怒られないあの状況とでもいうべきか。
ふむ、最近見た昔のドラマ勇者丸彦を見たことも加担しているのかもしれない。
私は気にせず、眠っているその人物に手をかけた。
「おいっ、起きろ」
ゆさゆさ。
「おいっ、起きろ」
ゆさゆさゆさ。
「おいっ、起きろ桃! いつまで寝ているつもりだ? いい加減起きな……さ…い」
今、私は何と言った?
「ふにゅ、はへ……」
寝ぼけたまま適当な返事を返すこの幼女は、間違いなく桃だ。香内桃である。
「一体何が……いや、まて」
私は知っている。
香内桃も、その母親も父親も。
そして、その母親にちょっかいを出されたのも記憶に新しい。
そう、記憶に新しいにも関わらず、ここまで記憶の片隅にも残っていなかったのは何故だろうか。
「んぅ、あれ、私? 菜茶、さん?」
「起きたか幼女」
「あれ、私一体……ここ、どこ? あるぇ?」
「ふふ、リアルにアルェを聞けただけでも儲けものというべきか。いやはや、何故私たちはここに居るのだろうな?」
「……なぜでしょぉ?」
とりあえず電気をつけ、話し合いを進める途中扉は開かれる。
「あるぇ~? わたひぃのへやはぁ~? どーこでーすかーんぅ? アルェェ?」
同世代の女に言われると、少しイラっとくるものがあるな。
「おい綾、幼女の前でまで酔ってるとは良いご身分だな」
「なーにぃをぉ? にーとなめんなぁー! ……ぶふっ」
一瞬で距離を詰めると腹パンを決めてやった。一撃で落ちたぜこの野郎。
「はぁ、気を取り直して」
いつまでもこの部屋に居る気になれなかった私は桃を着替えさせ(何故か衣服があった)、綾を肩に担ぐと下の部屋まで移動して着替えさせると、少し早めの朝食会場へ移動することとなった。




