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065.世界最強之挑戦(1)

「なかなか筋が良いですね。これは私もしっかり調整しなければいけませんね」

「カァー! あの神テクを前に動じないとは、流石世界最強は伊達じゃないですね!」

「いえいえ、私なんてスグに若い子たちに追い越されていきますよ。それに、この業界に足を踏み入れていないだけで数多の強者は居ますし、うかうかしてられないってのは本心ですよ」

「クァー! 是非とも世界最強を打ち破る挑戦者を見てみたいものですね!」

「……っ、あ、ああ。そうですね、私も楽しみにしています」

「では、放送の残り時間も僅かとなりました。それでは今日の発表のおさらいを……」


 真夜中にも関わらず、来場者数が5万を突破するとあるゲームのアップデート報告会にゲスト出演する私は、にこやかに司会をすすめる男性の一言一句に相槌を打ち、たまに来る問いかけに応えていた。


 世間の学生たちは夏休みという事で、こんな時間帯にも関わらず放送は大盛り上がりだ。


 そんな中、私だけ盛り上がりに欠けていた。

 国内産のこのネットゲームの売りだが、無限にあるスキルを使いこなせ! とかいうわりにパターンが少ないのだ。つまるところ、基本構成の最強ツリーから得意苦手のツリーを覚えメタってしまえば大抵何とかなってしまう、そんなゲームだ。


 まぁ、位置取りと反射神経だけで勝ててしまう雑なFPSよりかはマシと思うべきか。


「では、皆様おやすみんぐー!」

「「「おやすみんぐー!」」」


 ゲーム内で流行っている落ちる時の台詞を皆で言うと、放送は終了する。


「お疲れ様でしたー、阿賀沙蛇あかさた菜茶なちゃさんも忙しい中ありがとうございます」

「いえいえ、仕事ですから」

「長時間、本当にありがとうございますよ。途中、疲れてそうでしたもんね、ゆっくり休んでください! では私はこれで」


 プロデューサは打ち上げ行くぞー、と声をあげるとスタッフ達がぞろぞろとその後をついていく。

 そんな流れを見送る私は、さぁ帰るかとカバンを手に取る。


 別に私だけ誘われなかったわけではない。私が酒とタバコ、そして男をやらないと知っているから最初から飲みの誘いは来ないだけである。


 しかしプロデューサめ、疲れ知らずの私に向かって疲れてそうとは一体何事か。

 ……いや、確かに途中話しかけられてた時何かとてつもない違和感を感じて上の空になった気がする。

 とても大切な何かが頭の中からとびぬけたような、そんな……まさかね。


 スタジオを出ると、歩いて5分の場所に駅がある。

 出張で名古屋のスタジオに来ていたが、後は自宅のある東京へ帰るだけだ。

 そう、帰るだけなのに。


「はて、何故私は大阪行きのチケットを持っているのだろうか?」


 わざとらしく、そんな疑問の声を上げてみる。

 間違って買った? 大阪に知り合いなんて居ないのに、いや? なんだ、何故私はあの芸能人の家に覚えがある? ついにボケだしたか? ふふ、引退も近いという事か。


「良いだろう、このチケットを買った時の私の意図を継いでやろうじゃないか」


 独り言が癖だからしょうがない。

 早朝のホームにちらほら居る人たちが私を遠ざけて歩くが、それもしょうがない。

 最強とは孤独なものなのだ。


「ん、何だこの履歴は」


 携帯を開くと、通話履歴に軽く驚いてしまう。

 何故あの二人に電話をしたのだろうか? それも仕事として依頼料まで払っているのに、内容が全く思い出せない。

 気が付けば話しやすい方へとコールをしていた。


「姉さん、放送お疲れ様です」

「お前も見てたのか」

「いやぁ、今回のボスパターン入ってからが長くて、見ながら戦闘してました。ちなみに今も続行中です」

「ハハ、本当に廃人様ミウラは恐ろしい奴だな」

「それで、わざわざ俺に電話なんて、また依頼ですか? ヤですよ、レベル上げ遅れちゃうから」

「そうだ、その件だよミウラ。私は何の依頼をしたのか、実は覚えてないんだ。歳とは怖いね」

「あー、あぁー? んぅー? ちょっとまってくださいねぇ……何で俺、わざわざ大阪までいったんでしたっけ? 時刻は完璧に覚えてるんすけど」

「お前もか。いや、変なことを聞いてすまなかった。レベル上げを続けてくれ」

「……すいませんっす」


 依頼の話をした瞬間、珍しくゲームのキャラが被弾する音が聞こえてきた。ノーミスが当たり前の奴が、この話題になった途端動揺してプレイミスをしたのだ。

 つまり、私だけでなく大阪で何かがあったと思うべきだろう。


 新幹線に乗り込んだ私は記憶のピースを寄せ集めだしていた。

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