064.オフトンブレイク(2)
「「いただきます」」
からの
「「ごちそうさま」」
テーブルにあったいくつもの料理はみるみる内に減っていき、気が付けば二人同時に手をあわせてごちそうさまをしていた。
「今日はこの後、どうするん?」
「んー、とりあえずスクロールの補充を終えたら散歩でもしてこようかなと」
「散歩、良いね。着替えてくるよ」
「俺も着替えるか」
俺が着替え終わると、マルムも既にピンク色と黒色のフリルドレスを身にまとっていた。
相変わらず、ドレス系が好きな乙女である。
「やっとだね」
不意にそんな声をかけられ、思わず震えた声で返してしまう。
「あ、あぁ……」
ここまで長かった。皆成長していく中、俺だけがあの時のまま取り残されていく。
そして、家族にも友にも、元の世界の大地を歩くことも出来ずやはり一人だった俺は、ついに一歩前に踏み出せるのだ。
マルムが傍にいてくれたことも大きかっただろうが、俺の心をつなぎとめてくれる存在がもう一人いた。そんな彼女と会うのが散歩の密かな楽しみである。
「イイ、泣かんといて」
「泣いてないやい、ほら、行くぞ」
ごくごく自然に手を引いて外へ連れ出す。
螺旋階段を降りると、鍵についたボタンを押し込むと村の外へと続く扉が開かれる。
更に村周辺の民家が立ち並ぶ道を真っ直ぐ進むと、ちらほらと人が居る中ずっと動かずにその場に佇んでいる女性の背中が見えてくる。
「こんにちは、サーサさん」
「……」
反応は無いが、彼女は今も歪んだ時間軸の中必死に一歩を進もうと動こうとしている。
俺が初めて見た時から変わらぬ彼女の姿形に、それでも今を間違いなく生きているサーサに俺は勝手に心救われていた。
「最近新しいレシピ覚えたんで、機会があれば今度ごちそうしますよ」
「……」
マルムはこんな俺とサーサの会話を邪魔しないようにと、静かにしている。
「もうすぐ、もうすぐ俺達は元に戻れますよ。だから……行ってきます」
「……」
一瞬、サーサが頷いたような気がして俺は心を決める。
「マルム、行くぞ」
「うん」
俺たちの戦いはこれからだ。




