062.モーメントフロウ
ほんの少し遠回りをしてしまったが、急がば回れという言葉がある通りララとの出会い、村での補給、そしてラブリィイイィートダンジョンの攻略による特殊能力付与など通常のRLプレイでは得られない恩恵を得る事が出来ている。
しかし、ダンジョンへの入場は二人同時が限界らしく、最近はララとは一緒に潜っていない。
「イイ、また来よったで!」
「ああ、わかってる!」
幼女の声に促されるままにその方向へ向けナイフを投擲する。
ぐぇ、と小さな悲鳴と共にゴブリンは額を貫かれ消滅していた。
「さっすが」
「任せろ」
ハイタッチを交わすのは朱い瞳を輝かせるマルムとである。
俺から離れたくないというマルムは時のダンジョンまでついてきたのだ。
能力は完全にただの一般人なので、探索速度もゆっくりだし戦闘も守りながらが続いている。
「まっ、ドロップは相変わらずか……」
ドロップ品をあさるも、ゴミが続いている。
「川のベルト:誤字から生まれた川のベルト。
装備すると川で泳げるようになる。
防御力0
OP:水耐性微」
と、水系のダンジョン報告は聞いたことが無いし、ましてや時のダンジョンで使う機会は無いだろう。
他にも宝箱(小)とか、ブーメラン(使い切り)やら、縦笛とかガラス瓶とか。
全くもって使えない物ばかりドロップする。
「まぁまぁ、そのうち出るって」
「そうだな」
そして今いるのは時のダンジョン1階層。
時間対策OPを探す為、ひたすら狩りをしている。
自動で出現する敵をメインに狩りをしているが、成果は先ほど言った通りゴミばかりである。
「ところでマルム、ウィズユーだけど本当にどこにでもいけるのか?」
「勿論やで? 愛の力は絶対や」
まだ試していないが、この特殊な力はまだ温存している。
祈願者を従えている限り無限に使えるらしいけど、どうにもこういう力を使うのは間違っているような、そんな気がしている。
……まぁ師匠のツールを使った時点でそんな考えは捨てるべきなのだろうが。
「せやけど、今更時間対策が必要なんか?」
「ん? どういう事だ?」
「ほら、イイはもう時間停止状態やん? それ以上の状態ってうち知らんのよ。今更対策したって、効果は消えないで。あー、そんな悩ましい顔して悩まんといて……せやな、サーサわかるか?」
「ああ、あのずっと道端で一歩を進もうとゆっくり進んでいる女の子だろう?」
「せやで、何でずっと放置されていると思う? 時間対策装備、つけてあげたらどうなるかわかるか?」
「……普通に戻るんじゃないのか?」
「ちゃうで。あくまで状態異常を受けないようにするだけや、一度かかった時間系の状態異常はほぼ永続だと考えて良いんよ。解放条件は時の姫さん救出くらいやろうなぁ。せやけど、仮に状態異常を解除できても無駄やろうなぁ」
「ん、無駄って?」
まぁ今の状態異常が解除できなくても、これ以上変な状態になりたくないので探索は続行する。
しかし、無駄という意味は何だ?
「あちゃー、ララにきいとらんのかいね? 現実の時間と状態異常による時間の差異はどんどん歪んでいって、元に戻った時にはその反動をモロに受けるんよ。過去に時間系の状態異常解除のスクロールが出たことがあったんよ? まだ複製がない頃で、その価値に気づかず国の馬鹿が使いよったんよ」
「それで?」
「そいつは自分自身にかかっていた状態異常を無事解除して、そのまま消えたわ」
「消えた?」
「せや。偉い人は言ってたわ、時間に置き去りにされた存在は元に戻ろうとする力に存在事消されたんだろうって。要するに、時間対策してない奴が状態異常にかかった時点で即死してるんと一緒なんよ」
死んでいる? いや、でも俺は今こうして生きている。
「今動けてるとか、国の連中が自己強化として時間系の状態異常を甘んじて受け入れてるとか思うかもしれんけど、そんなんは幻想にすぎへんのよ。イイが生きて動けているのが不思議な状態だけど、そういう状態だからこそ特殊な力を得る人も多いの。少なくとも国の連中はそうやって特殊な兵士を量産して、人の命を使いつぶして居るわ。イイは復活出来る? みたいだけど、その体だからこそって感じで、イイの本物の体はきっと耐えられないと思うの」
いや、マルム、一体何を。
「だから、イイは姫様を救い出して自らの状態異常を維持し続ける必要があるね。もし他の人が時を自由に使いだしたら、それこそ時の状態異常組みは軒並み即死だろうし、その力が再び世界を襲うって考えたら生きているのがやになっちゃうわ。ん、難しかったかな? 要するにイイは現状維持するための努力をうちと一緒に頑張ろうって話やで!」
何てこった。
まさか幼女に死の宣告を告げられるとは。
確かに前は空腹すぎて死にそうになった思い出があるが、既に元に戻っても耐えきれない程の状態ならばどうしようもない。
ああ、無性に師匠や皆に会いたくなってくる。
「まぁ時間は沢山あるんやし、そんな顔せんといて!」
「あ、ああ……」
結局はやることは変わらない。
時間対策装備を集め、その装備を元に復活を駆使して何度も何度も何度も何度も誰よりも先に姫様を助け出すしかない訳で。気を再び引き締めて俺は言う。
「大丈夫だ、問題無い。俺が必ず攻略してやる」
「せやな。イイならうち達は安心や」
こんな会話をしたのが三年前になるか。
やっと、第一階層で念願のアイテムを手に入れる事となる。




