060.ラブリィイイィートダンジョン攻略(6)
何分走り続けただろうか?
……正確には2分と13秒を経過したところか。思ったより走っているな。
真っ直ぐ走り続けた結果、リアルの補助リング部分を手に持ち全力疾走する技術を再び会得していた。
没入感が強くなるほど、リアルの感覚が薄れこっちの世界で体を動かしている感覚しかなくなるのだから、今では二つの体を同時に動かすような不思議な感覚である。
しかし、2分以上走り続け、かたや距離を詰められたら全力疾走を織り交ぜた走法を続けているにも関わらず息切れはしない。まぁ、この件は【時間停止】が大きく関係しているという事で心の片隅にどけておこう。要は、リアル体力の配分は気にせずガンガンいけるわけで。
「ってかこの道、終わりがないんじゃないか!? ララ、早く正気に戻ってくれ!」
「ムリィ、ムリィィィ! イイィィ! タベリュゥ!」
言葉遣いまでおかしくなっている。甘え声な感じのララさん、男勝り系かと思いきやあんな声だせるのガッ。
俺の妄想は再び肩を掴まれた握力に途切れた。
「ちぃ」
掴まれただけで体力が1減るも、身を捻り振り払うと短剣を構えて見せる。
「ほら、肉でも食べて落ち着けララ!」
自分の体力を素早く回復しつつ、切り分けたウサギ肉(生)を投げるとポクッ、と口でキャッチして咀嚼を始めた。
「イイ、オニクィィ、イイノオニクゥゥゥ」
完全に別人になったレベルで狂ったララを見ながら、俺は速断する。
2分も走り続けてゴールも敵も居ないとなると、この道はフェイク。
ならば壁を調べるしかない訳で。
もうすぐララも肉を飲み込もうというところまで咀嚼しているわけで、コンコンと石橋を叩くがごとく探索する余裕は無いだろう。
ならば? ああ、壁をぶち破る勢いで突っ込んでみるしかない!
「うおぉぉ!」
壁に向け拳を振りぬくと、壁に打ち付ける覚悟だった拳はそのまま壁を貫き体ごともっていかれる。
そう、壁自体がフェイク。
「っとと、これはまた……」
目の前に広がる景色は真っ白の背景。地面に凹凸は無く単色で包まれた世界は、自身の立っている足元が崩れ落ち、どこまでも落ちていくような錯覚さえ覚えさせられる。
振り向くと、先ほどまでいた道も無く白一色。
そんな確認をする時間しか取れなかった。フワリとララの体が白色の世界に出現した。
道を外れ正解ルートに入ったと思いきや、更に道は無く。
これはもう、残された思考は一つで。
「やるっきゃないかっ!」
逆手に構えた短剣で今度はこちらから打って出る。
距離を詰め、腕を振り上げるとヒュッと音と共にララの前髪をかすめた。
その場で身を逸らしたララはサマーソルトに行動を移し、今度は俺の腕がララのつま先に抉られる。
「ぐっ」
蹴られた腕は跳ね上げられ、その勢いで体が一瞬宙に浮く。
バランスを崩したところにララはタックルを仕掛け、抗う事も出来ず思いっきり地面に叩きつけられる。
「あぐっ」
意識が一瞬飛んでしまう。気が付けば両腕を押さえつけられ、マウントポジションを取られた状態だった。
「ヤットツカマエタァ」
語尾にハートがつくような甘い声で顔をにやつかせたララの行動に、ドキリとしつつも次の手を打つ。
「マジック!」
両腕をおさえつけられようがコンソールを呼び出す指が動けば問題がない。
慣れた手つきでスクロールを呼び出すと、ディスホーリーのスクロールを使用した。
「「うぁぁぁぁ」」
二人の声が響く。
光の柱の中に居る対象に物理的切断ダメージを与える魔法に包み込まれた俺達はお互い顔を歪ませ白い大地にひれ伏した。
「はぁ、はぁ……イイ、ありがと、う。はぁ、少しマシになった」
「そ、それは良かった、です」
「魅了に食欲の状態異常って、想像を絶するわね……」
「そう、ですね」
「イイと一緒に居るってだけの小祈願なのに、何でこんなハードル高くなってるのかしら。私も色々ダンジョン攻略をしてきたけど、こんなの初めてだわ」
「あのぉ、平気になった顔して俺の上で腰振るのやめてもらえませんかねぇ」
「もうちょっと、もうちょっとだけ!」
しかし、第二階層までしかないハズのこのダンジョンのここは普通のダンジョンとはまるで違うようだ。そう、俺が知っている第二階層のように。
「ほら、ララはこのお肉食べて体力回復してください」
「んー!」
何故口を突き出してきますか。
ひょいひょいひょい、と三つ程口の中に投げ入れると俺も押し倒されたまま肉を消費していく。
「さぁて、ここからどう移動しようかね」
真っ白な世界の中、俺とララはポツンと立ち尽くしていた。
が、速断するまでもなく俺の頭の中にはアレを使う事が脳裏をよぎっていた。
「師匠、使わせてもらいますよ」
コンソールからカスタムされたツール、自動マッピングを起動させると視界の隅に長方形の半透明な方眼紙が生成された。




