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006.レディ(5)

 数分ぶりに戻ってきた第一階層を目の前にして、嫌な予感が全身を駆け巡る。

 ひやり、と夏場にも関わらず冷たい風が全身を舐めるように駆け巡り、ブルリと体を震わせてしまう。


「寒い、ね」

「あぁ、最高にホットな寒さだな」


 足元は安定せず、青みがかった白銀の世界が俺たち二人を出迎えていた。


「とにかく移動だ。どうやらジッとしていると体力が削れるらしい」

「そうだね。っとと、走るのは無理か……」


 こんな足場にも関わらず走りだそうとするサクラに苦笑しつつ、俺達は方向すらもわからぬまま正面に向かって歩き出した。


 壁が一切なく、まるで青空でもみているかのような透き通るような青い天井。そして、壁がない代わりに地面の起伏が激しい障害物の見当たらないオープンワールドのようなダンジョン。停止すると体力が削れ、足場も常に悪いという条件からも、ここはヘル系の一つだと予想を立てていた。


 第一階層からヘルにあたった場合はやり直しという選択を取る事も出来るのだが、流石俺の相棒となる奴だ。リセットなんて選択は眼中にないらしい。


「あっ、コレ良い奴じゃないかな!?」


 俺より先行して歩いていたサクラが地面から引っこ抜いたソレは、物干し竿である。


「うぅ、重い……あげる」

「おいおい、大丈夫かそんなので」


 どうやら重量をそこそこ感じるアイテムらしいが、これが持てなきゃ鉄製の武器とかドロップしても扱えないのじゃないかという一抹の不安を感じた俺である。


 が、重い物は俺が扱えばドロップ品が無駄にならないと、役割分担が出来るのだから協力プレイは素晴らしい。


 手渡しされた物干し竿を眺めると、情報が開示された。


『物干し竿:物を干す事ができる。

      リーチが長く、よくしなる。

      攻撃力+3』


 攻撃力が3で、リーチも長いという地味に良武器だったことに思わず顔がニヤケてしまう。

 幸先が良い、三十分という縛りの中でコレがあれば十分にどんな連携が出来るか確認できるだろう。


「そういや、サクラは何か得意な事は無いのか?」

「えっ? えーと、そうだね……」


 うーん、うーんと唸り続け体力がガッという音とともに削れ出すのを見て慌てて背中を押す。


「動け動け、足を止めると死ぬぞ!」

「ひゃ、ごめん。ごめん、一週間頑張ったけどまだ得意なことは見つからないかな……」


 おいおい、本当に大丈夫か? それに、名前や言葉的に中身は女性だろうという予想がたつ。

 実際、リアルの性別がどうかなど関係ないのだが一緒に『クリア』を目指して頑張るのだから、このままダメな部分だけしか見る事が出来なければサヨウナラという展開も十分に考えられる。


 いや、向上心さえあればローグライク系はどこまでも深い部分まで遊びつくすことができるタイプなのだから、今すぐダメそうだという思いを抱くのはお門違いか。


「まぁ良いよ。探索を続けよう」

「うん」


 五分程度が経過したが、俺のアイテムは増える一方サクラのアイテムは一向に増えていなかった。

 ただし、アイテムの発見は全てサクラがしていたのだが。


「なぁ、サクラはどうしてアイテムをそう発見出来るんだ?」


 思わず問いただしてしまう。これじゃ俺が足を引っ張っているだけじゃないか。

 周囲には見分けのつきにくい似たような色でアイテムが落ちており、近づいてみてもなかなかアイテムがあると判別が出来ないでいる。


「えっ? イイは見えない? 普通にそこらに落ちているけど」

「見えん……」


 口惜しさを覚えつつ、更に進むとサクラの動きが不意に停止した。


「あれ、何かいる」

「ン……」


 目を凝らし、指さす方向を見つめるとキラキラと輝く光の粒が空中を漂っているアンノウンを視野に捉える。


「んっ!? アレは精霊種じゃないか。まだ属性系の武器も魔法もないのに、厄介な」

「精霊種?」

「まだ遭遇したこと無かったか。光の玉で空中を漂っているのは、敵キャラの精霊で色によって異なった性質を持っているんだ。ただ、共通して持っている特性が厄介で属性での攻撃しかダメージ判定がないんだ。それに動きに反応して近づいてくるから、逃げようとしても追いかけられて詰むケースがほとんどなんだ。対処法としては、ジッと待って視界の外に行くのを願う運任せがセオリーだな、今のところ」

「へぇ、流石イイちゃん詳しいね!」


 褒められて悪い気はしなかったが、ちゃんづけは辞めてほしいところである。


「まぁ、状況は最悪としか言えないけどな。ジッと待機してればたちまち体力は削れ死ぬし、逃げようと行動すると追いかけられ成すすべなく殺されてしまう。拾ったアイテムでは対処できる物が無いと来た」


 二人いようが、詰む場合はどうしようもないのかと膝をつきそうになったが、サクラはにこやかに言ってのけた。


「属性攻撃なら問題ないんだ? ファイアボールとかで倒せるのかな?」

「……たぶんあの色からして氷属性だろうから、火は弱点じゃないかな。つまり、一発でも火属性の攻撃を当てれれば倒せるだろう」


 知識があろうと、対処法を知っていようと、このゲームは俺達プレイヤーに対して容赦がない。

 まだ時間は十分くらい残っているのだ、諦めてもうワントライ味見をして良いんじゃないかと思ったその時、サクラの頭上に長文がビュッと音と共に表示された。


「朱き大地の奥底より 神の怒りが天を貫く イードの魂

  ヒ ネ ホ ア ヒャ ゴ ハ ス サ ネ カ フ ヒ バ

   ロウ リー ホハ カエ アー ズマ アーク

    祝福を マジック」


 唱えられたその台詞の直後、腕を突き出したサクラの掌から、拳大の火球ファイアボールが解き放たれていた。

 精霊種に向かっていったソレは見事に当たると、光の粒はゆっくりと輝きを失い消えていった。


「お、おい今のは!? スクロールでも拾っていた、わけじゃないよな?」

「え、えへへ。覚えたんだよ」


 覚えた? いや、普段はドロップしたスクロールを開き、マジックと唱えると魔力を消費して魔法の力が作用するが、確かスクロールには魔法の呪文がズラズラと描かれている。


「まさか、スクロールの内容を覚えた、のか?」

「うん、そうだよ」


 マジか。文字の打ち込みができる訳でもなく、実際にあの訳の分からない暗号じみた詠唱を現実リアルに唱えたっていうのか、このサクラって奴は。


「すげぇ、すげぇよ!」

「あっ、ごめん予定より早いけど、ちょっと用事があるからまた夜にね!」

「あ、おいっ」


 精霊種がドロップしたアイテムを確認したかったが、サクラが抜けたことにより協力プレイが終了となり俺も物干し竿を地面に残し自室へと戻っていた。


「ぶはっ、すげぇ、すげぇぞあいつ!」


 ゴーグルを外すと、思わずベットにダイブしてしまった。

 まだスクロール無しでの魔法使用の情報はどこにも出ていなかった。にも関わらず、その方法を見つけ出し実践で用いるなど、一般プレイヤーではなかなかたどり着けない領域である。


 俺ですら、そんな方法があるなど考えもしなかった。

 ぐぅ、とお腹が鳴り、立ち上がった俺は炊いた米と浅漬けをちゃぶ台にセットしながら、久方ぶりの食事をとるのであった。


 めしうめぇ。

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