057.ラブリィイイィートダンジョン攻略(3)
ゲームの世界に降り立ったら、まさしく目の前のような光景が展開されるのだろう。
仮想の体で自由自在に動き回れ、どんだけ動いても疲れも感じず無双出来る。
「イイ、遅いわよ」
「あ、ああ」
第一階層に入るなり、巨大ネズミやらワニやらカバやら、動物系の敵がわんさか自分たちに襲い掛かってきた。牙が、顎が、巨大な口が開かれ襲い掛かるも、タァァ! と掛け声と共に放たれる拳によって巨大ネズミは吹き飛ばされ、大きく開かれたワニの口は突き上げた掌底により顎を外され、目にも止まらぬ殴打のコンボが体中に叩きこまれ、カバさんは体内から爆散していた。
正直、剣を手に入れて振り回すだけでも疲労を感じるし、長距離移動したら息切れしてしまうリアル体力依存を、ララは一切見せることなくダンジョンを突き進む。
不思議なことに、俺も疲れを感じることなくそのスピードについていっている。
「なぁララ、もしかして俺いらなくね?」
思わずそんな事を訪ねてしまう。
そうすると、笑いながらララは振り返った。
「ふふ、第一階層はどこも簡単よ? 問題は次の層から、といってもマルムを見つけ出すだけだから難易度は問題ないと思うけどね? イイだって強いのは知っているから、期待してるのよ?」
思わず期待していると言われ、顔を赤くしながらも短剣を手に取る。
「何か来ます」
「ええ、次は何かしらね?」
俺達が戦闘態勢をとると、ソレは姿を現した。
「いやぁ、いやぁいやいやぁ! 誰かと思えばカビ臭い田舎に住んでるラーシャじゃーないかぁ! 奇遇だねぇ、おやおやおやおやぁ? 男連れかぁ? アハハハハハッ、君みたいな肉だるまにも興味をもつ雄がいるとはねぇ! あぁん? 何なら俺が遊んでやろうか?」
やけにテンション高めの男は黄金に輝く剣を両手に持ちながら、開始のセリフを呟いた。
「ハッ、浮かれてるペット野郎は処分だ」
カンッ、と鈍い音がした。
咄嗟に構えたミセリコルデブレイカー(破)が黄金の剣を捉え、そのまま飛び退く勢いで思いっきりソードブレイクを発動させた。
「なっ、俺の動きが見えているってことかぁ? オマケにキンピカまで破壊するとは、少し驚いたな。訂正しよう、肉だるまが連れているペットは躾がなってないってなぁぁ!」
「くっ」
正直煽り耐性はオンラインゲームをプレイしていればいくらでも身につくため、この男が何を言おうが問題にはならない。ただ、恐るべきはそのプレイヤースキル。
決して真っ直ぐ進まず、武器も縦に小振りに振るいガードしようと空いた胴に向けて横殴りに剣を振るってきたのだ。小回りが利く短剣だったから受け切れたものの、装備物によっては一発貰っているところだった。
ゲーム風に言うならば、コイツはイベントの雑魚キャラではなく、しっかりしたAIを積んだ相手。
ネームド属性というべき相手だった。
「いきなり何のようだ? 敵対する覚えは無いんだが」
無駄とは思いつつも、俺が問いかけると間にララが割り込んでくる。
「もぅ、何で国の人間がもうここにいるのよ? 邪魔をするな」
「ハァー! いいねぇ、その男勝りな喋り方。メス豚のようにブヒブヒ鳴きながら俺の物になるなら、国にペットのように地面をはいずりまわしながら連れ帰ってやっても良いんだぜぇ? ヒャヒャヒャ」
「話に、な、ら、な、いっ!」
ララの蹴りが男にヒットすると、ピュゥーンと音をたてて遠くへ吹き飛んで行った。
人があそこまで綺麗な弧を描いて飛ぶなんて、現実離れした世界にきてしまったものだと頭を抱えた。




