053.スペースユニバース(8)
それは本当に一瞬の出来事だった。
一瞬ゆえに、何が起こったかはさっぱり理解出来ないでいた。
「終わりました……これでうちの祈りは24時間、自由自在や!」
「えっ、もう?」
「せやで、もうこれでうちはイイのものや!」
「まぁ待て、落ち着こう? 何か不穏な台詞はきやがりましたよね?」
「ふぁ?」
「マルム、確認があるのですが良いでしょうか?」
「何やタタン、そんな顔して?」
「貴女の小祈願は、イイさんの故郷へ同行したいと願う、そういう感じのもので間違いないですよね?」
「せやで?」
「ふむ、嘘を吐くときの癖は出てませんね。良いでしょう、それではイイさん、一度自分の星へ戻ってくれませんか? ログから、いつでも帰還出来ると言ってましたよね?」
「ええ、わかりました」
とりあえず、言われるがままログアウトをすると再び現実に戻っていた。
ちなみに、戻っている最中向こうの俺は眠っているそうだ。
で、周囲を見渡したがマルムの姿は見えない。
それはそうだろう? やはりあの人たちは皆NPCで、想像を絶したレベルの没入感に俺は……。
「ん?」
思わずそんな声が漏れ出た。
そして上を見上げた時、それは始まっていた。
「なん、だと」
頭上では光の線が所狭しと左右へ交差していた。
徐々にその光は高度を下げ、アニメのキャラの変身シーン並みに人型の光を形成させると、ポンッとシャンパンの栓でも抜いたかのような音が狭き世界に響いた。
「俺、この場合コレいわなきゃいけねぇのかな?」
「きゃっ、もう! もうちょっと優しくキャッチしてねぇな!」
お、親方! 頭上から女の子が!
「てか、服はどうしたおい」
「んー? 後から来ると思うで!」
そう言われ、上をみえげたタイミングでショーツやブラジャーが顔面にダイブしてきた。
「ちょっとぉ! 何うちの下着食べようしてんねん! かえしてぇや!」
「誤解だって! いや、それより服着てくれ」
「う、うん」
服を着る際に、げしげしとマルムの肘が俺の股間付近を突きヒヤヒヤしながらも俺はハァ、と軽く眩暈を覚えてしまう。
「本当に、来てしまったんか……」
「ええ、来ちゃったわよ。それにしても、地球? って狭いのね!」
「いや、これはRLに没入するための装置であって、外はもっと広いで?」
「ふぅん……あぁ、イイ! これだけはいっとくで! うちはタタンが旦那なんやからな! 裸みたからって、勘違いせんといてや!」
顔を赤らめながら、そんな台詞をいう幼女は微笑ましい。
そう、思ってた時期が俺にもありました。
「でもな、でもやで? うちはこう、抑えきれんのや……だいしゅきぃぃ!」
「んなっ、ばかなっ!?」
「ウィズユー。そしてお肉美味しかったなぁ、て少しの雑念が混ざった結果、うちはイイが美味しそうにみえてしょうがないねん、はむはむ」
「やめ、やめれ!」
シャツをめくりあげると、お腹付近をハムハムしだすマルムに危機感を覚える。
「落ち着け、マジ落ち着け!」
「だいしゅきぃぃ、やよ?」
「涎きたねぇ! まぁまて、色々と不味い要素が詰まりすぎだ!」
「おいしいよぉ?」
目をハート形にさせながらそんな台詞を吐くマルムをみて、俺は瞬断した。
「没入する、戻るぞマルム!」
「ああん、今のイイは見た目はタイプやないけど、だいしゅきやよ? ああ、待ってぇ!」
何故俺に好意を寄せてくれる相手は毎回タイプじゃない、と前置きをしてくるのだろうか。
そんな事を思いながら、俺は再びRLの世界へと没入した。




