052.スペースユニバース(7)
気を取り直して、この場所が宇宙船だという話に続いて確認した内容を次々に脳内にて処理を開始する。
人類は遠い昔、故郷の星を捨てて宇宙へと進出していたこと。
7つの大罪という単語は俺でもわかるが、幾億の呪いという単語はあまりにもスケールが大きすぎて例えに出された数個ですら覚えれなかった。
幾億の呪いの中でも、極めて危険度の高いものを萬禁忌の大罪と呼ぶようで、人類は願う事をしてはいけない1万の願いを指すという事。
そして、その中の一つが『時間』に関する願い事だそうだ。いくつもの願いの内、未だに制御が効いていないのがここ第千弐百零零号艦大陸:消滅時間という事らしい。
一度は考えた事があるだろうか? 明日も同じ日曜日なら良いな、という考えを。
アレを願い、叶えてしまった人類が当初数えきれない程いたそうだ。
結果は、ループする日々に精神を病み次々に次の祈願者を増やしていったそうな。
負の思いは連鎖を重ね、やがて対処するための願い事をする人物も増え始め、やがて呪いに対し禁厭の祈願者というのが現れたらしい。
三大禁厭の一つ、重封は単語の通り奇跡を祈った人物を封印するという物。
ただし制約がつき、危険度につき10階層という大地の奥底まで送り込む事、救い出せばその力を手にすることが出来る事といった条件がついた、らしい。
ちなみに、祈願同士の衝突により祈願者になってから24時間後にしか封印されない、との補足ももらった。
封印が簡単に解かれたら不味いと、一つにその封印者の危険度を知らしめるため偶像の敵をポップする無限偶像を祈願した人物。
そしてそんな重封のある大地は、隔離しようとこの宇宙空間に宇宙船としての機能をもたせた大陸を次々に放出していったそうだ……。
だがここで、更なる事件が発生する。
大陸同士での争いが生まれ、封印されし力を我が物にしようという組織が次々と生まれていったのだ。
で、どうなったかと言えばここ消滅時間では人類が衰退していったという訳だ。
まぁ、挑んだ全てがここのダンジョンで敗れ去っていっただけらしいが。
今ではすっかり侵略者もいなくなり、日々減っていく人口に無人大陸になってしまう未来しかない人々は最後の抗いとばかりに自らの大陸で攻略を始めていた。
「それで、ララは挑戦者になったって訳か?」
「そうよ。私は、私達は時間を取り戻さないといけないの」
しかし結果は芳しくなく、管理者たちは考えたそうだ。
小さき祈願者を募ろうと。
簡単に言えば小さな願い事を実現させ、その力を手に入れて強化をしていく。
その力を元に、時のダンジョンを攻略しようという算段だと。
「このコンソール機能も、アイテムボックス機能も、ここの電力も食事も、全部小さな願い事の集合体なの。この村の5階から上は全員もう祈願済の人たち。自らの意思を持てなくなった人たちが眠っている場所」
「救い出したら、その力を手に入れる……」
「そう。再び力が暴走しないように、救い出した者達は救出者による絶対命令を聞かなくちゃいけないルールがあるの。だから、私達は命令するの、自室で死ぬまで生きていてと」
救われない。
助かっても、死ぬまで狭い部屋の中死ぬまで誰とも話すことなくその奇跡を維持するためだけに生き続ける。願い事は一度だけ。
その願い事の結果、永遠を失うなんて……。
「僕たちは人徳に反する行為をしている自覚はあるんだよ。でもね、そう甘い事が言えないまでに自体は進んでいるんだよ。小さき祈願者は皆、この呪いが解けるのを待っているんだ」
そしてこの大陸最大の禁忌。
狂う時間は、無差別に各所で被害を出し始めた。
重封されているにも関わらずに、その姫の願いは衰える事を知らない。
封印されしこの大陸だけでなく、全てへ時間は伝播する。
その結果、俺の故郷である地球も時間が停止、もしくは超時間低迷しているのではないかと三人はそろって結論づけていた。
「なぁ、一応確認させてほしいんだが。いや、気を悪くしたら悪い、と先に謝ったうえで確認させてくれ。ここはゲームの世界、そう思う事自体がナンセンスなのか? VRゲームの世界で俺は遊んでいるだけだと、そういう認識なんだよ」
「僕たちがゲームの世界の住民ねぇ。いっその事それが事実だと僕は嬉しいんだけど……そうだね、それじゃどうだい? 君の住んでいる場所へ誰か同行したら手っ取り早いと思うよ」
「……そんな事、出来るんですか?」
「ああ、僕にならね。丁度小さき祈願者予定のマルムが居る訳だし、イイ君の住む場所に向かわせてみるのも面白いね」
一拍あけ、タタンは言う。
「君たちならば、この大陸を、この呪いを解くカギになるかもしれないからね」
話は少しだけ戻る。
ララに確認された事項の一つに、俺の身体能力があった。
バッドステータスである時間停止はニヤリイコール死亡という概念らしいけど、俺はこの状態でも動けている。色々確認したものの、何の時間が停止しているのかわからず結局は保留となった。
そしてもう一つのバッドステータス、時間逆行。この状態異常にかかるだけで身体能力は半分以下に落ちるという。そこから効果が大きくなる程(幼くなる程)振れ幅が広くなり、最悪生まれる前まで飛んでしまえばその時点で死亡という概念に相当するとの事。
つまり、今の俺は推測一年分の時間逆行にかかり、ちょうど半分の身体能力減で済んでいるそうだ。
「そんな状態でそこまで動けるのだから、イイは凄いよ」
とは実際に共闘したララのセリフだ。
確かに初めての時はスケルトン相手に押し倒され、押し返すことも出来なかった俺があのモンスターハウスで戦えたのだから、50%の能力でも十分に戦っていけるのだろう。
「ただ非常に残念だけど、既にバッドステータスが定着しちゃってるから時間対策装備をしたところで効果は発揮されないわ。まだ、あの時だったら……」
「良いですよ。攻略すればいいわけですし」
と、そんな会話をしていた訳で。
流れとしては、俺はララと組んでこのダンジョンを攻略することを目指すこととなっていた。
そして今に至る。
「本当にそんな、俺の住んでいる場所まで貴方達が来ることが出来るんですか?」
「奇跡とはそういう事を可能にするから奇跡というんだよ」
「タタン、良いの? 私の小さき願い事は」
「マルム、この本当の奇跡に私はすがっても良いと思うんだ。それにマルムの願いは僕も心を痛めていたんだよ」
「……うん、そう言ってくれるんなら私の願い事はイイと一緒にいる事や。それだけでええんやろ?」
マルムという女の子が、どんな願い事をさせられようとしていたのかは聞かなかった。
ただ、小さく目を瞑るとマルムは祈りだす。
「えっ、今はじめるんですか!?」
「ああ、実行しなきゃ始まらないからね。僕たちはそう、既に学んでいる」




