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005.レディ(4)

 いざ、第二階層へ突入しようとした瞬間、目の前に見慣れないウインドが広がった。


『サクラさんから協力プレイの申請が来ています』


 身に着けた輝くエフェクトのついたネックレスから擦れた音がしたのは、身震いしたためだ。

 フレンド申請が来ていた相手、そのキャラネームがサクラというキャラであり、午後10時頃にログアウトしていた人物と同じ名前だった。


 俺は即座に思い至る。

 一日待ってもINしない俺を待つことを辞め、早朝からのプレイの可能性を信じてのログインなのだろうと。慢心かもしれないが、こんな時間帯からプレイするなんて、そう思わずにはいられない。


 俺の勝手な理屈付けだが早朝からこの世界に挑むとは、仲良くなれそうな、そんな気がした。


 迷うことなく俺は『はい』の選択を指でタッチするとシャリンという音に続いてザクリッ、と装備していた長剣が地面に突き刺さり俺の体は光の粒になって消えた。


「……だぁぁぁぁ!?」

「ひゃぁ!?」


 俺は思わず声を上げていた。予想以上に順調に第一階層を突破する寸前で自室キャンプへと戻されたのだから。


 ああ、俺の長剣。それにネックレスに至っては矢除けの魔力がついており魔力を1消費して矢の直撃を回避出来るという神アイテムを拾えていたってのに、全てを落とした(ドロップ)してしまった。


 頭を抱えながら、3時間以上もの努力の結晶を焼失した俺に声をかけてくるキャラがいた。


「あ、あのアイちゃん?」

「ぁん?」

「あっ、あの」


 ふと、マジマジと正面に立っているキャラを観察するとよく作りこまれたイケメンキャラがそこにいた。


「長身で細身、さらに金髪パッツンか。それにしても作りこみが凄いな」


 そんな感想を告げる。


「え、えへへ。良いでしょう?」

「良い、には違いないが」


 嫌味で言ったのに、どうやら褒められたと勘違いしているようだ。

 俺のキャラはといえば、クリエイトに時間をかけるのが勿体なくてデフォルトキャラに目を鋭くしただけの、至ってシンプルな中肉中背キャラにしていた。

 目の前のキャラは高身長で的になりやすくダメだな、それに顔だちも整い過ぎていて的にされやすいな(PvPてきな意味で)。デフォルトパーツに存在しない物ばかりで構成されているため、相当時間をかけて作ったに違いない。


 そう、攻略を目指すプレイヤーとして『そんな事』に時間をかけているとは、ふんっ。という感じの嫌味だったのだが。


 それに、音声出力のデバイスの誤作動なのだろう。俺をみてアイちゃんと言いやがった。

 ここはちゃんと訂正しておかねばな。


「俺のキャラネームはイイだ、イイ。漢字にするなら飯だな」


 完全に後付けの漢字名だ。名前付けで時間を無駄にしたくなかったため、アア、は流石にアレがアレなためイイにしたまでなのだが。


「あっ、うん、ごめんね」


 男キャラのくせして、発言が女言葉だが……まぁ、リアルの詮索をする暇があれば潜るしかないか。


「まぁ良い。それで、潜るか?」


 全部失った直後だが、二人同時プレイなんて心躍る展開にいつまでもナヨナヨなんかしてられない訳で。


「う、うんっ。でも今は30分だけで……」

「あー、そうだな。俺も朝飯食ったりしたいし、様子見だけにするか」

「えっ!? 朝ごはん食べるの?」

「ん、もうお前は終わったのか?」

「えっ、だってほら、折角コレ始めたんだし」


 うーん。飯なんかよりプレイしたいけど、外せない用事があるってところか。

 わかる、わかるぞその状況。


 セーブできなくていい場所まで進めた時に限って用事が出来たり、大型クエストの途中でイイ感じに進めていたところで呼び出しが入ったり。


 そんな時は気持ちが落ち着かず、遊んでいてもモヤモヤするわ、途中で放棄する選択なんて取れないわでモヤモヤするわ。終わってからもモヤモヤするわ、最高を最悪に変換する素敵マジック。それが用事リアルイベントである。


 ん、呼び出されても最後までやり通してから向かうのが俺のジャスティスだよ?

 誰に言い訳するでもなく、そんな弁明をしておく。


「わかった、30分だけ様子見して後で再合流しよう」

「うん。それにしても完全になりきってるんだね」

「ん? まぁな」


 よくわからないが、適当に相槌を打つと俺達は第一階層へと歩を進めた。

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