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047.スペースユニバース(2)

「はぁ、何じゃこりゃ」


 思いのまま、そんな言葉が漏れ出てしまう。

 隣で何が? といった感じで指先を頬にあて首を傾げるのはララである。


「何って? そりゃ、村の入り口だけど」

「いやいやいやいや、これが入り口って変でしょ!? まるでどこか大きなお城を守る、そう、城壁とかあんな感じじゃん!?」


 思わずテンションをあげつつ、叫びながら指さす先には高層ビルレベルの壁が見渡す限りに続いている場所をさしていた。


「んーまぁ、お城もあるし城壁ってニュアンスも間違ってないけど、やっぱり私にとっては入り口かな? 村だし」

「はぁ、運営め……」


 ボソリと運営に悪態をつく。

 確かに様々な煽り文句で宣伝していたのは記憶に新しい。

 その中の一つの煽り文句がこうだった。


『ローグライフの世界は君へ未知をプレゼントしよう』と。


 浅い森とは確かに言っていた。

 そこを抜けたら、まぁ何てことでしょう。立派な壁がそびえたってましたとさ、とか。


「未知すぎんよぉぉぉ!」

「うわっ、さっきからどうしたんだよ? 君はわからないな」

「……ごめん、少し取り乱してしまった。それで、これ入れるの?」

「もちろん、ほらっ」


 指でワイプする仕草をすると、ララは手に車の鍵のようなものを手にしていた。

 何か鍵穴でもあるのかな? と思っていたら影の根本の部分を押し込むように握ると、ピッと音と共にウィン、と重厚感のある扉が左右に開く。


「その見た目で自動ドア形式かよぉぉぉ」

「わっ、大丈夫か? やはり先ほど消滅デスポーンしたように見えたけど、打ち所が悪かったか?」

「いや、本当に御免。ここの事について全然知らない事ばかりで、見るもの感じるもの全部が驚きの連発なんだ、だからリアクションは許してほしい」

「……ん。そういう事なら、このことについても後で詳しくすりあわせしましょう」


 城門をくぐると、そこには城下町と言っていいような景色が広がっていた。

 城門周辺は整備されており芝生で走り回れるような、そんなエリアが広がっている。

 更に中央へ視線を向けると、石造りの家や、木造の家、基本的には三階建てまでみたいだがずらりと建物が並んでいるのが視界に入る。

 賑わいの声が聞こえない辺り、住宅エリアがずらりと並んでいるという予想になる。

 その奥の方はどうなっているのか全く見えないが、視線を少し上にあげるとデカデカと存在を主張する建物があった。


「もう突っ込まねぇよ? 普通にお城じゃなくて高層ビルだったとか、くそっ、くそぉ」


 少しだけ、ほんの少しだけ期待していたんだ。

 お城に呼ばれ、王様から『おお勇者よ、褒美を与えよう』みたいな? そんなシチュエーションを体験できるってほんの少しだけ。


「くそぉ」

「ほら、歩いた歩いた」


 ララも俺のテンションに慣れたのか、手を引いて歩きだしていた。

 すると、広い道の真ん中でバスケットを腕にひっかけたまま佇んでいる女性がジッとこちらを見ていることに気づいた。思わずずっと見られているものだから、ララに小声で尋ねかけた。


「あの子、ずっとこっち見てるけど? ララ、あの子に悪い事したんじゃないですか?」

「ああ、サーサか。別に私達をみているわけじゃないよ」


 はて、では何をみているのだろうか?


「あの子は超時間低迷フレームバーストの状態異常にかかってるからねぇ。悲劇だね、本当に」

「フレームバースト? 何かドラゴンが吐きそうなルビっすね」

「あはっ、何だその例えは。超時間低迷、ようするに異常に時間の経過が遅くなる現象だね。あの子は百年近くかけて1センチ動いたって話だよ。時間対策は絶対に必須なの、あの子をみてたらわかるでしょう?」


 百年もかけて1センチ動いたって、それは……。


「未鑑定スクロールの不発で、あの子にかかっちゃってね。男どもは夜な夜な悪戯をしてはあのバスケットにお金を投げ入れるのは、いつまでたっても止まないしね……」

「悪戯?」

「そこ聞く? 動けないかわいい子が居たら、どうなるかわかるでしょ?」


 いや、わからないけど……まぁ、何となく理解した。


「わかった、この話はこれで終わりにしよう」

「そうそう。それにしても、イイはよく時間逆行リタイム時間停止タイムアウトと二重に状態異常かかった状態で平気ね? 時間逆行に関しては以前よりもマシになっているし」


 今更だが、時間逆行リタイムにもかかっていたようだ。前回は装備品が切れなくなる程体が縮んでいたが、今回は1、2年前の俺に戻った程度だったのが幸いしたか。


「じゃ、村の中に入りましょう」


 そう言い、中央にデカデカとそびえたっていたビルに入ろうとするララ。

 村ってのは、ビルをさすんですね。

 俺、わかります。常識が効かない、わかります。


「私の部屋、三階だから階段で良いよね?」

「はい」


 螺旋階段を登り、三階の踊り場から扉を開けるとこれまたオフィスビルなどでみるような構造が広がり、廊下は規則的に分岐していた。その内の一つの扉に近づくと、扉の横にあるカードリーダーにカードキーをあてるとカチリ、と鍵が開く音が響いた。


「遠慮なく入って。私はお風呂さきに済ますから」

「あ、はい」


 入った部屋は外見上のオフィスビルとは異なりしっかりマンション風の一室となっていた。

 てか、広いなおい。入ってスグに浴場があり、まっすぐ進むと16畳はありそうな空間が広がっていた。ハンガーたてに私服数着あったり、キャビネットの中をあけると下着が入っていたり。職場に住んでみたらこうなります! を実践したような部屋構成だった。


 シャワーの音も残念ながら聞こえず、手持無沙汰な俺はとりあえず椅子に座ってログアウトを試みた。


「戻れちゃうんだよなぁ……」


 ゴーグルを外すと、外へ出ようと試みる。が、やはりダンボールのくせに突き破って外に出る事すら叶わなかった。


「おーい、桃ー? 実は起きてたりするだろー? 桜ー、モニタみてニヤニヤしてたりするんだろー? 師匠ー、ヘルプミー! 綾さん、こういう時こそ来てくれよ! ちっ、ダメか……」


 再びログインしなおすと、目の前にバスタオル一枚みにつけたララが俺の顔を覗き込んでいた。

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