046.スペースユニバース(1)
俺は視界の隅に映るログウインドをそっと最小化すると、すっかり元気になったラーシャさんに手を差し伸べる。その手をギュッと握るとゆっくりと立ち上がった。
「その、はしたない姿をみせたね」
「いえ、俺の方こそ驚かせてすみません」
「つもる話もあるけど、一度ここから離れようか。アイテムも気力ももう空っぽさ、一度戻って補給しないとね」
補給ポイントがあるのか、とそんな事を思っていると声は続いた。
「それと、だな。私の事は是非ララと呼んでほしい。ラーシャライトがフルネームなんだ、覚えといてほしい」
「え、あ、はい」
「……君の名、フルネームは?」
「……えっと、ああ。イイです」
「? アア・イイ?」
「いや、『イイ』だけです。これが俺のフルネームです」
「そうか、イイがフルネームだったんだ。それじゃ、イイ、地上に戻ろう」
地上? と、そんな疑問を口に出す間もなく俺は手を掴まれるとララが何かを口ずさみ、マジックと唱えていた。
ローディングとは違い、ずっと続く天へ上る光の道に吸い込まれ、気が付いた時には。
「いてっ」
「アハハッ、何やってんだいイイ? そういえば、時間対策も無しに潜ってたところから初心者だね? 帰還術も初めてならしょうがないか。ほら、手を」
尻もちをついたまま、今度は俺が手をララの手を握り立ち上がる。
瞬間。
フワッと大地の香り、土や花、そしてアンモニア……? いや、それはさておき。
「ここ、は?」
「ん、村のはずれにあるダンジョン入り口だよ? イイは別の入り口から入ったのかな? そもそも新しい挑戦者が居るなんて話は聞いていないし、それも後でじっくり聞かせてもらおうかな」
「へいへい」
ララの話を軽く聞き流しながら、俺は周囲を見渡す。
森の中に、人三人が同時に入れそうな扉が1つポツンと不自然に立っていた。
見覚えのあるその扉は、階層を降りるときに見るソレである。
「この森は浅いから歩けばすぐ村に着くよ」
「おふ、とりあえず移動しよっか」
まさか地上データまで用意があるとは、ここの運営は本当に頭がおかしいレベルで徹底しているようだ。
そして、大地を歩いているとかし思えない感覚に、木々や花の香が鼻孔をくすぐるこの感覚は、没入感がどうのこうのというレベルではない。
本当に俺がここに存在しているとしか思えない、そんなレベルである。
「じゃあ、案内するね」
そう言うとララは俺の手を取り歩き出す。




