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044.パトロネスアンデット(5)

 着弾後、一拍あけた後爆風と煙がビュンッ、ブワワッと広がる。

 そんな煙の中から、両手をクロスしたまま一つの影が突進してくる。


「うおっ」


 思わず一歩足を引いてしまったが、そこから現れたのはすすまみれになったラーシャさんだった。

 周囲に目もくれず、顔の前をガードしたまま俺の目の前まで辿り着くとザッと片足を軸に足払いをするように反転してみせた。


「貴方、生きてたの?」

「えっ、あっ、はい」

「そう、でも助かった。スクロール切れちゃってアイツに超苦戦してたから」


 砕けた喋り方をするラーシャさんに、こんな喋り方も出来るんだとそんな事を思う。


「今度は私が助けられちゃったね、本当に助かったわ。で」


 で、俺へは一切視線を向けないまま煙の中を凝視するラーシャさんと俺。

 理由は……。


「ぐぎ、ぎぎぎ」

「ホンマ、しぶといわっ」


 間違いなく魔法がヒットしたはずなのに、平然とその場に佇んでいるのは死神リーパー。

 俺が使える唯一の魔法はコレだけだし、残り9発、いや何度でも倒せるまで打ち込むしかないか?


「さっきの剣、あれまだある?」

「え、あ、はい」


 アイテムボックスから先ほどの剣を取りだすと、ロングソード(聖属性:染色金色)を手に取りだす。先ほども確認はしていたが、やはり死亡した際にドロップせずにちゃんと俺が所持していることになっていた。


「それ、貸して!」


 俺は隣に立つと剣を大地に突き刺し、ラーシャさんはそれを抜き取った。


「せいやっ」

「!?」


 いきなり剣に拳をたたきつけると、鈍い音とともに真ん中からロングソードが折れる。

 無言で黙々と二つになったソレを手にまきつけていくと、小手のように装着してみせた。


「属性攻撃できれば、こっちのもんや」

「は、はぁ……」


 思わず生返事をしてしまう。

 まさかアイテムを分解して、再構成する事が出来るとは想像外だった。

 むしろ、拳で剣が折れるのか……?


『分解を理解しました』


 唐突に、そんなメッセージログが流れる。


 刹那。


 過去ログにメッセージがつらつらと流れだす。

 分解のログよりも過去にさかのぼるように、それらはログに記載されていく。

 あたかも、前から記載されていたかのように。


復活リスポーンを理解しました』

永久保持ノーペナルティを理解しました』

分解ぶんかいを理解しました』

構築ビルドを理解しました』


 と、上下にログが生成されていた。

 本来ではありえない挙動に、また謎仕様か、とこの現象はあきらめる事にした。


「ハァァァァ!」


 まさかのNPCvsBOSS戦という流れに、色んな決意や思いを胸に飛び込んだ俺は取り残される。


 ダダンッ、と左右の拳で正拳突きを放つと大鎌で首を狩ろうと怯まず首裏に潜ました鎌だが、首と鎌の間に素早く片手を挟み込むと、シュッと音をたて鎌と剣が擦れあう。


 鎌の先端部分のが更にラーシャさんを襲うが、そのころには態勢を低くして死神リーパーの攻撃を完全に捌き切る。


 そんな低姿勢のままタックルを放つように距離を詰めると、折れた柄のある剣を結び付けた手を思いっきり上へ振り上げた。


「てやぁあああ」


 ガンッ、と鈍い音と同時に死神リーパーの顔がおもいっきり上へ向く。

 そのまま降りぬいたジャンプアッパーはラーシャさんの全体重を乗せた一撃となり、そのまま宙に浮いたまま目にもとまらぬ拳連打ラッシュをボディへと叩きこんでいた。


 タンッ、と着地と同時にラーシャさんはこちらに振り返りゆっくりとした歩みで俺の方へと近づいてくる。3歩目で、宙に浮いてた死神リーパーは大地に崩れ落ち、その姿を消滅デスポーンさせていた。


「はぁ、私もまだまだだね。もう限界近いわ」

「だ、大丈夫ですかっ」


 片膝をつき、体力の限界を迎えようとしているラーシャさんは大きく肩で息をしていた。

 視線も大地にくぎ付けで、面を上げる事も叶わないといったようだった。


『ヤレ』


 近づこうと歩みを進めた瞬間、そんなログと聞き覚えのある声が脳内に響く。

 一歩踏み出そうと、足を前に出した瞬間にそのログは瞬く間に流れ落ちる。


『アイツからの依頼だからな、金をもらっている以上最後まで面倒をみろってうるさいから、しょうがなくだぞ? しょうがなく、お前にこの音声データを送る』


 データ? いや、そもそも何故下郎(ノーテン)の声が俺に?


『このデータは人間相手、もしくは人型をした何かを前にしたとき、確実にヤレるだろう時に再生されるように仕組ませてもらった。お前さん、全然俺の授業を理解してなかっただろう? だからハッキリ伝えてやるよ』


 何だ、何を言うつもりだ。


『ソイツを殺せ。そして奪え』


 黙れ、馬鹿な事を言うな。


『もしも馬鹿な事を言うななどヌルイ事を言っていたら、鼻で笑ってやるよ。本質を見誤るなよガキ? ローグライクってのは、奪って進んでいくもんなんだよ! モンスターみたいな適当な奴狩って強くなるだけなら、ハック&スラッシュでもやってろ。良いか? お前の目の前にいるのは宝だ、資源だ、先へ進むための糧だ。容赦はするな、甘い事を考えるな』


『殺せ、それでお前が求めている物が手に入るだろう? 以上だ、これで貰った金の分だけは働いたからな。アバヨ』


 瞬断してしまう。

 ラーシャさんを殺せば、時間対策装備が手に入る可能性が高いという事を。

 今を逃せば、あんなに身体能力の高いラーシャさんを殺すことは不可能だろうという事を。

 ならば、今あの人を殺せば……俺は現実に戻れるのだと。


 嫌なイベントだ、運営のセンスを疑いたくなる。

 そしてしゃくだが、ノーテンの伝えたい事を理解してしまう。

 このゲームの本質をはき違えるなと、そしてこのチャンスを物にしなければ次がいつくるかわからないのだ。そう、俺が元に戻る為のチャンスがいつくるのかが。


「くっ」


 俺は唇をキュと強く噛むと、口の中に血の味が広がっていく。

 それでも、俺が詠唱の開始を始めたのだった。


「なっ……」


 小さな悲鳴が、確かにラーシャさんから漏れ出たのがわかる。

 二人しかいない空間で、俺が先ほどみせた詠唱を開始したのだ。

 ラーシャさんだって瞬断が出来るのだろう、その場から動こうと震える足に手を添え立ち上がろうとするも、全くもって力が入っておらず……。


 俺はそんなラーシャさんの姿を見ながら、詠唱をつづけた。

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