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042.パトロネスアンデット(3)

 全身に痛みを残したまま、何とか顔をあげると体術一つでアンデットウォリアーとフランケンの攻撃を捌くラーシャさんの姿が目に映る。


 剣をギリギリのところで躱し懐に入り込むと、ハァと声を上げアンデットウォリアーに拳を二連撃加えると、両の拳を引いた瞬間にベコリと音をたて鎧が陥没してアンデットウォリアーは崩れ落ちていた。


 そんなラーシャさんを囲むように陣取ったフランケン達が、同時に殴りかかるも膝と肘で二方向からの攻撃を捌き、背後からの一撃に対処出来ず体が大地から離れ、一瞬沈むように拳に体をえぐりこませると振りぬいた拳に押し出されるかのように明後日の方向へラーシャさんは宙を舞っていた。


 それでも悲鳴を漏らすことなくダンッ、と地面に叩きつけられると同時に受け身を取ったのか跳ねるようにして片膝をついた体勢にしていた。


 人って、地面に叩きつけられたら飛び跳ねるんだな、とそんなどうでもいい事を考えながら上手く呼吸が出来なくてまともな思考が出来てないんだな、と思い至る。


 そして、どうしても振り返って確認したいという気持ちに抗えなく俺は背後に振り返った。


「はっ、っはっっ……」


 笑い声なのだろうか、それとも酸素を求めての声だったのだろうか。

 俺の視線の前には大鎌を振り上げた死神リーパーが赤く光る瞳を輝かせながらそっと俺の首裏へソレを回した。


 やめてくれ、それを……引かないでくれ。


「ぎひぃ」


 何とも嫌な声だった。

 容赦なく手を大鎌を俺の首に添え、ザッと音を立てた瞬間麻痺していた肩の痛みが、全身の痛みが、首筋から発せられた信じられないような痛みで全ての痛覚がハッキリと感じ取られた。


 声をあげようにも、宙にをグルグルと舞う視界情報のみで発せられることは無かった。


 コレは死んだな、それだけはハッキリと考える事が出来た。




「ガハッ!? はっ、はぁぁ、はぁぁ、はぁはぁはぁ……がっ、い、ぎて、る?」


 首を掻きむしるようにした俺は、マイルームへと戻ってきていた。

 それもアイテムをドロップせず、全て所有したままである。

 デスペナルティは、無い。代わりに最悪な死亡体験を味わい、胸糞悪い。


「ログアウト、出来るな……」


 声が出る。

 本当に首は繋がっているようだ。俺は迷わずログアウトするとゴーグルをそっと外す。


「ある、繋がってる。大丈夫だ……外に……は出れないか」


 生きている。

 この事実に驚くほど安堵感を覚える。

 ただ、これでわかった事がある。


 痛みも、音声も、あのヘルダンジョンでの出来事も何もかも全ては『錯覚』だという事。

 つまるところ、VR技術による没入感から脳が勝手に認識して現実としてしまっているだけなのだ、という事だ。


 謎が残るとすれば、現実にまで時間停止が影響している理由がサッパリ予想がつかない。


 思わず座り込むも、俺は心を落ち着かせたい気持ちを抑えスグに立ち上がる。

 今も、この瞬間もラーシャさんは戦っている可能性があるのだ。

 NPCが協力してくれるイベント戦かもしれない、これも全てゲームの一環なのかもしれない。


 それでも、どうしても見捨てる事は出来なかった。


 あの世界のリアル加減に、どうやら俺は魅了されつつあるようだ。

 マイルームへ戻ると、体力も魔力も回復している事を確認する。

 そして第一階層へ再臨した俺は、間違いなく先ほどの続きだと確信する。


「死ぬのは御免だが、やられたままって訳にはいかねぇな」


 俺は詠唱を開始すると、再びラーシャさんのいる場所だいにかいそうへ足を向けるのだった。

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