040.パトロネスアンデット(1)
ゾクリ。
嫌な予感が全身に警戒を知らせる。
完全に第二階層にキャラが生成される前に俺は全力で駆けだしていた。
ドゴン、と後方で音が鳴るが気にせずソレに背を向けたまま壁際まで走り、壁を背に振り返る。
「なんだこりゃ」
思わずそんな感想が漏れる。
目の前には骨のみで構成されたスケルトン、足の無い奥が透けて見える浮遊体ゴースト、青色の鎧と盾に剣を手に握る首なしのアンデットウォリアー、巨大な剥き出しのボルトが頭に刺さっているフランケン。
それらがそれぞれ陣を組んで俺へとゆっくり迫ってきていた。
更に、そんな陣の中央奥には大鎌を掲げて見せる存在、死神リーパーが浮遊していた。
ザッと正確な数に陣営を脳内で弾き出す。
スケルトンが壁のように横一列に8体。その背後にゴーストとアンデットウォリアーが交互に5体、5体の10体。その後ろにフランケンが3体が死神リーパーを囲むように陣を組んでいた。
俺が降り立った場所には、斥候らしきスケルトンがこん棒を大地に叩きつけた姿のまま固まっていた。
武器は大斧一つ、魔力も残り9。どう見ても絶望しかない現状にも関わらず、俺は思わず笑みを浮かべてしまっていた。
死んだ場合、元に戻れるのだろうか? 再スタートになるのだろうか? それとも、時間停止は死すらも停止させてしまうのだろうか? はたまた、本当に死んでしまう扱いになるのだろうか。
こんなにも不安要素しか出てこないのに、このシチュエーションを乗り切る事しか頭にない俺はこの状況を楽しんでいるのかもしれない。
スケルトンは大斧でなぎ倒し、ゴーストは魔法で、アンデットウォリアーは状況に応じて魔法を使用。フランケンも物理で殴り飛ばして、リーパーは残りの魔力全部ぶつけてやる。
イメージを一瞬で整えると、俺は面で向かってくる敵に向かって駆けだした。
大振りで振り下ろした大斧はOPの即死効果を発動させると、スケルトン一体をアッサリと砕いて見せた。穴が開いた先に居たゴーストに予め唱えていた魔法をヒットさせると、豪火の炎に焼かれゴーストが絶命していた。
サッとドロップを2つ回収するとバックステップで再び距離を取る。
相手は陣を組んでいるものの、指揮系統が正確でない事が幸いして俺の行動に対応した行動を取ることは無かった。
ヒット&ウェイを繰り返し、壁際まで追いつめられるまでにスケルトンは全滅、ゴーストも狩りつくせた。ドロップは中身を見る暇が無くアイテムボックスへ収納するのみで終わっている。
アンデットウォリアー、フランケン、死神リーパーは俺を壁際まで追い込んだ事で勝負ありと見たのか、ケラケラと笑い声をあげだす。
急にそんな笑い声が止まると、アンデットウォリアーの1体が俺の脳天めがけて剣を振りかぶってきた。大斧の面で受け止めると、想像以上に力に一瞬体が大地に埋まる錯覚を覚える。
「ちぃ」
受け止めた剣を斜めに逸らすと、足払いでアンデットウォリアーの体制を崩そうと仕掛けるもガンッ、と音がするだけでビクともしなかった。むしろ足の先に痛みを覚えたが、体力は減ってないので問題はないだろう。
仕掛けた足を引っ込めると、横へ飛びのき次の1体が振りかぶっていた剣を回避する。
が、回避先に待ち構えて居たアンデットウォリアー達が三方向から同時に俺の命を奪うべく剣をふるって来ていた。
詠唱の暇もなく、被弾を覚悟した時だった。
「マジック、ディスホーリー」
3体の内一体の剣先が俺とは別の方向へ向かったことを確認した俺は、その僅かな隙間へ身を滑り込ませ大斧をしたから上へ大きく振り上げた。
その一撃で体制を崩していたアンデットウォリアーの1体が消滅する。
壁沿いに一気にかけると、知った声の主と合流する。
「また貴方なの? それに前より状態異常が増えているし、まぁ……話は後にしましょう」
「はいっ」
ラーシャさんとの再会を果たした俺は、会話をする間もなく戦闘体制を取った。




