038.タイムアウト(3)
再びリポップした敵は、先ほど倒した巨大ウサギだった。ただし、その数は二匹と先ほどよりも何度が上がっていた。それぞれが微妙にタイミングをずらして飛び跳ねてくるのを観察すると、俺は先に来るウサギに対しては全力で回避に専念し、続いて迫るウサギに対してヒット&ウェイを決めていく。
パターンさえ入れば、数が多かろうが問題ではなかった。
しかし、先ほど一匹狩るのに費やした倍以上の時間をかけ、既にパンパンになっていた足も限界が訪れるかと思ったが思いのほか疲労は無く被弾無という良結果で狩り終える事が出来た。
ドロップ品はこうだ。
「ウサギのマント:うさ耳フードのついた逸品。
炎に対して若干耐性がある。
寒さに対して若干の耐性がある。
防御力+0」
モフモフのマントを装備すると、こっそりフードのつけ外しを試みるが、似合わないだろうという結論に至りフードは外しておくことにした。
狩りの結果は良好だったが、俺は内心焦りを覚えつつあった。
「ログに変化は無し、か……」
戦闘中に見逃したか? とログをさかのぼるも、現実からの打刻は見当たらず。
コンソール画面で見る時計も変化がない。
ただ刻々と刻むのは俺の体内時計だけである。
現実用に意識わけしている体内時計は次の打刻ログで進めようと思っていたが、あの瞬間--NPCからの麻痺攻撃を受けた後から停止したままであった。
そんな進まない現実時間に焦りを覚えつつも、次のドロップを拾い上げる。
「スイッチ:スイッチを押すとピロンと楽し気な音が鳴る。
使用制限無し」
いやまぁ、これほど無駄なアイテムをヘルダンジョンでドロップするとガッカリ感が半端ない。
試しに手のひらサイズの黄色い土台(中央に赤いボタンがある)を片手に、そっとボタンに触れてみた。
「ピロン」
……うん、本当に音が鳴るだけのアイテムだった。
しばらくすると、次のポップはなく壁の一部がゴゴゴと音を立てて開き、戻りようの階段と下り用の階段が出現していた。
どうやら第一階層はたったコレだけしか敵は居ないようで、時間対策装備を得ることは叶わなかった。
このまま進めば第二層で速攻時間攻撃の餌食となり、また子供の姿にされかねない。
いや、次は加速系でお爺さんになっているかもしれない。
とにもかくにも、第一階層で時間装備を得る必要がある。
そう結論づけると、一度俺はドロップ品を持ち帰るべく上へ戻る階段へ登った。
「アイテムを保管箱に戻してっと……まだ時間は進まないか。一度戻るか?」
流石に現実との時間差が1時間近くになろうとして、ここまで進まない事象は下手すると戻った瞬間餓死しちゃうんじゃないか? と焦りは不安に昇華して、俺は念のためログアウトをすることにした。
画面はゆっくりブラックアウトしていき、ゴーグルデバイスを取り外す。
両足は程よい疲労感を覚えているが、汗はピタリと止まったのかシャツがグショグショになっているなんて事は無かった。
桃との一件があったから、今回は服を着てプレイしているよ!?
で、外に出ようとしたんだけど、ここで深刻な状態に陥っていることにようやく思い至る。
「ひらか、ねぇ! 桃ー! ももさーん! 起きてー!」
段ボールの出口が開かない。桃へ話しかけても反応は無し。
パソコンからの時間通知もログアウトしたにも関わらず未だに反応は無し。
(ログアウトしてもコンソールログは起動する)
大人げない、と思いつつも不安が俺の行動力をフル稼働させる。
壊す勢いで思いっきり出口を蹴り上げるも、バコンという音を立てるだけでビクともしなかった。
考えられるのは二つ。
閉じ込められたのか、それとも……。
「まさか、時間停止したってか? いや、でも流石にゲーム内だけならまだ色々理屈も、予想も、妄想も、何だってできるじゃないか。なのに、現実まで止まるなんて事、あるのか!?」
思わず声に出して状況確認をする。
「桃ー! 桃ー! 起きろー! 起きてくれー!」
声の続く限り叫ぶも、反応は無い。
軽く五分は叫び続けただろう。喉が枯れる事もなく、疲労すら覚えない体に嫌でも違和感を感じてしまう。
考えろ、そして瞬断するんだ。
目を閉じ、呼吸を整えると俺は再びRLの世界へと戻っていった。




