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037.タイムアウト(2)

 一度飛び跳ねるだけで数メートルの距離を詰めてくるその巨躯は、踏みつぶされれば必殺の一撃となるだろう。だからといい、詠唱による魔力消費は極力避けて通りたい。

 良いスクロールが手に入った場合や、魔力の回復手段を手に入れない限りは無駄遣い出来ない。


 と、なると両手で握った大斧頼りとなる。オプションの即死効果がハマれば良いのだが、おおきく振りかぶってヒットさせるという条件上、この場面では活用出来そうにない。


 狙うべき正攻法は着地後から飛び跳ねるまでの数秒の溜めの時間。そのタイミングでヒット&ウェイが無難だろう。目前に着地した兎の横へ回り込むと、前足に横殴りで大斧を叩きこむ。


 次の瞬間、俺は足元のデバイスを思いっきり踏み込んで駆けだした。数メートルの距離をとるべく、両サイドにある補助リングに手をかけ全力で駆けると、兎が背後に着地したのが空気感で伝わる。

 その巨躯に似合わずふわりと着地するため、この着地時の風圧がなければこの緊張感は味わえなかっただろう。

 横に飛びのき、再びその場で身を捻り大斧を叩きこむ。


 バシッ、とヒット音が鳴り響き確実に兎の体力を削っていく。


 全力で走るたびに、キャラクターが両手を横に構えて(リングを持っている姿が反映されて)いるのは遠目に見れば変な走り方この上ない。


 足がガクガク言い出した六回目に、ようやく兎が光の粒となり消滅デスポーンをした。

 さて、何をドロップしただろうかと見るとそこには巨大な肉の塊が落ちていた。


「ウサギの肉(巨大):食べると空腹感が満たされる。

           使用回数(1000/1000)。

           調理しても効果は変わらない。体力が1回復する」


 回復アイテム、それも1000回復出来る逸品ではないか。

 それも回数制ということは、1刻みで回復出来るってことで。


 気になった俺はフレーバーテキストも参照する。


「ウサギの肉:これ以上うまい赤身肉を人類は知ることは無いだろう。

       焼いてよし、煮てよし、出汁をとってよし。

       血抜きを忘れずに(ここ重要)」


 ん、血抜きはされている状態、なんだよな? 念のためにドロップ品を大斧でつついてみると、ふわりと赤色のエフェクトが浮かび数秒かけて消えていった。


「ウサギの肉(上質):後は調理をすれば極上の触感と味を楽しめるだろう」


 うお、まさかと思ったがテキスト内容が変化した。まさかこんなところに料理要素を差し込んでくるとは想定外だったが、味覚もない世界なので無駄な仕様を盛り込んだものだと思い至る。


 とりあえず減っている体力1を回復すべく、アイテムを使用すると残量が(999/1000)になり体力は10に戻っていた。


「君が、僕の敵だね」


 女性の声が聞こえ、中央へ視線を移す。


「僕を楽しませてよ」


 つやのある紫色のプロテクターを身に着けた人型の敵。

 両足は剥きだしで、その細く綺麗な足に思わず目を奪われる。プロテクターの下には何も身に着けてないのだろう、繋ぎ目などからチラチラと綺麗な肌色をした素肌が覗く。

 そして顔は長い黒髪をストレートに、目もクルリとした綺麗な瞳に鼻も少し高めで、簡単に言えば日本人の外国人モデルに負けないような美人さんだ。


 そんな人型の敵が、俺を見て舌なめずりをする光景に背筋が凍り付くような思いをする。


 その女性てきは手に剣とラージ盾を出現させると、盾を構えたままじわり、じわりと距離を詰めてくる。そう、まるでプレイヤーがアイテムボックスから装備を取りだしたかのような、かつ慎重な行動に思わず後ずさりをしてしまう。


「あら、来ないのかしら? さっさと狩っちゃおうかしら」

「ま、待て!」

「あらあら、命乞いかしら?」

「そうじゃない、君はプレイヤーなのか?」

「プレイヤー? 何訳わかんない事言ってるのかしら。時の巫女は私がもらうの、その為に狩って、狩って、狩りつくさなきゃいけないの。ただ、それだけよ」


 ここで理解する。この人はラーシャさんのようなNPCだ、まさかこんな形でNPC戦が始まるとは思いもよらなかった。しかし、俺は逡巡する。


 こんな見た目をした相手を俺は倒さなければいけないのか?


「戦わない、という選択はとれないだろうか?」

「はぁ? 目の前に転がる獲物と仲良くするなんて、理解不能ね。良くしゃべるオスは嫌いよ」


 お互いの武器が届く間合いにまで近づいた敵は、ラージ盾を構えたまま剣で俺へ切りかかってくる。

 動きは鋭いが、避けれないほどではない。ただ、俺の攻撃は盾にふさがれてしまうだろうし、魔法で焼くなんて事も考えたくない。


「くそっ」


 ジワリ、ジワリと距離を詰め続ける敵のラージ盾に大斧を叩きつけると、想像に反して思いっきり後方へ吹き飛んでいってしまう。


「あっ、がっ……何て力」


 盾は後方へ吹き飛び、宙を舞った勢いのまま壁に突き刺さった。

 基本的に俺達人間の体力が10だとすると、攻撃力が5と初期値の1の合算値、6という値は想像以上にヤバいのかもしれない。

 それでも、あんなに吹き飛んで口から軽く血を履いている程度ということは、防具の質によるダメージ減算。つまるところ最低値の1しか入らなかったのだろうと推測する。


 まぁ、ここまでするつもりはなかったが、どうやら力のパラメータがないぶん人間離れした膂力を持ち合わせているのだろう。


「このガキが、調子に乗るんじゃないわよ!」


 プロテクターの中から一枚のスクロールを取りだした敵は、それを裂いてマジックと言い放った。

 瞬間、足元が崩れるような感覚に陥る。


「アハハハハハ! 完全に決まったわ」

「な、何をした!?」


 体は動くが、足がしびれている時のような感覚に麻痺系のデバフをくらったのかと思い至るが、体は動かすことが出来る。


「バーカ、教えるわけ無いじゃない。またどこかで会いましょう、おバカさん」


 そう言い残すと、敵は再びスクロールを使用すると姿をどこかへ消してしまっていた。


「やった、のか……?」


 日本人女性のような相手との戦闘はひとまず回避出来たと思っていいだろう。

 この先、もし同じようなシチュエーションがあるとすれば、俺はどうしたら良いだろうか?


 ログには、15minという文字が刻まれていた。

 そこで俺は思考する。

 体内時計は16分を刻んでいるにも関わらず、ログが1分遅れだした? つまるところ、この世界には16分いるのに、現実では15分しか経ってないこととなる。


 俺は慌ててコンソールを表示して時計を表示すると、時計のカウントが停止していた。

 まさかとは思うが、時間計の攻撃を食らった? いつ? いや、あの瞬間からしか考えられない。


「やられた……」


 まさか、NPCに時間系の魔法をかけられるとは。それも第一階層からだ。

 しかし幸いだったのは、現実時間が遅くなりゲーム内時間が経過する加速系という事だろうか。前回と同じならば、現実に戻った瞬間空腹で死にそうにな思いをしたくらいか。

 そして、長時間プレイしても現実時間への影響がほぼないという事だ。


 こうなりゃ、現実の1分で鬼のように育成をしてやる。

 そう、俺は思っていた。

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