036.タイムアウト(1)
いつものホームに降り立った俺は、早速ヘルダンジョンへ挑んだ。
「たぶん一緒、だよな」
俺の呟きが吹き出しとして表示される。
まだ声が音声として再現されないあたり、やはり第二階層からが特別だと思うべきだろう。
第二層に行く前に、出来る限り整えていこう。
目標は時間対策装備。
周囲を確認すると、だたっぴろい空間にポツンと降り立ってしまったようだ。
灯りは十分、モンスターの姿は見当たらない。ついでにいうと、下へ降りるための階段も見当たらない。
これは手あたり次第に探索するしかなさそうである。
ポン、ポンと三度目のログがリアル時間の経過を教えてくれた時だった。
「ぐふうぅ、ぐふぅぅ」
なっ、と声を漏らしそうになる声を抑え込む。
壁際まであと倍の距離を残したところで、俺が降り立った中央から荒い呼吸音が空間に響き渡った。
「ニン、ゲン! ニンゲンッ!」
声の主を見ると、二本の脚で立っている猪らしき姿の敵が小斧を片手にこちらを睨んでいた。
いっそのこと、猪マスクを被った人型だったほうが良いのではないか? と運営に敵デザインについて文句をいいたくなった。
立ち上がった猪もどきは、涎をダラリと牙の隙間から垂らすと見た目に反して素早い動きで走ってくる。あわてて横へ飛びのくと、そのまま真っ直ぐ俺の隣を通り過ぎようとした。
「ぐっ」
十分に避けれたタイミングだったが、俺の体力は9とダメージ判定を受け減っていた。
猪もどきの小斧が横幅の判定を増加させていたようだ。
しょっぱなから被弾しながらも、初期装備も無しで相手を倒すすべを考える。
「しゃらくせぇっ!」
俺は呪文を詠唱すると、再び突っ込んでくる猪もどきを正面から焼き払った。
まさに必殺の一撃である火の魔法は、猪もどきを一撃で葬り去っていた。
「大斧:攻撃力+5
両手で持つ武器。
おおきく振りかぶれば斬首も可能。
OP:振りかぶり攻撃時、即死効果」
物騒な武器だが、いきなり即死OPがついた武器を手に入れた俺は再び中央に視線を向ける。
「ぐふうぅぅ、ぐふうぅぅぅ」
再び空間中央にモンスターが出現していた。
どうやらここは、1VS1で規定数の敵を撃破していくダンジョンだと推測する。
「やってらろうじゃねぇかっ!」
両手で大斧を握ると、正面からピョンピョン飛び跳ねて近づいてくる巨大なウサギに対峙した。




