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032.ウィルテイクユゥ(9)

 没入した瞬間、体中に力が漲るようなオーラに身が包まれた気がする。

 そして俺はイイとしてこの世界へと降り立った。


「ノーテンさん、ですか?」

「ああ」


 吹き出しで会話する俺達はPT会話のみへと設定を変更させると、指をはじきコンソールを表示させると視線左下にログウインドを表示させた。


「これで良いですか?」

「よし、行くぞ」


 俺よりも簡素な、完全なデフォルトキャラでやってきた男性の名はノーテン。師匠が紹介してくれた、次に技術を盗むべく相手である。


『1m』


 ログの中に濃い水色でそんな文字が浮かび上がる。これは俺がリアルから自動コマンド(クーロン)で1分おきにリアルの経過時間をログとして出力している。


 俺のリアル時間用の体内時計、パソコン時間の2つの時計も丁度1分を刻んでいたため、この世界とゲームの世界での誤差はゼロという状態だ。


 しかし本当に、体内で刻む時計を複数持つことが出来るとは思ってもいなかった。

 こうして没入すると、新しく持ったこの新たなる感覚に心が躍る。


「ぼやぼやするな、潜るぞ」

「はいっ」


 フレンドと同時に闘技場へ向かう事で、同じ位置へと降り立つことが出来る。

 といっても、開始位置は完全にランダムのため二人して戦闘のど真ん中に降り立つことも十分に考えられる。

 闘技場へ没入してからの無敵時間でいかに体勢を整えれるかが重要だと、思う。


 VRMMOでのPvPは実のところ初めての為、勝手が良くわかっていない。

 もっと言えば、ノーテンさんと近場に降り立ったからと言って仲間という概念は無い為、下手に動くとフレンドリィファイアとなり迷惑をかけかねないのだ。


「移動するぞ」

「はい」


 フィールドに転移した俺達は建物の一室に降り立っていた。どこかの会議室だろうか? 四角く並べられた机に椅子、植木鉢とあるが窓は一切なく、青白いブロックで構成された部屋には蛍光灯の眩いばかりの光で満たされていた。


「部屋から出る前に適当に取れるものはとっとけ」

「はい」


 部屋の中には武器になりそうなものは特になかったが、赤と黒のフェルトペンを両手に取っておく。


「先の空間で戦闘が行われているな。俺は一度しか教えない、だからしっかりその心へ刻み込め」

「はいっ!」


 そしてソレは始まった。

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