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031.ウィルテイクユゥ(8)

 翌日、師匠はイベントがあると言い残すと名古屋まで向かわれてしまった。

 つまるところ。


「えっと、とりあえず朝食たべよっか」

「うんっ」


 しかし、昨日俺の家に訪れてからまだ一日しか経過していないがとてつもなく気になる事がある。


「ところでさ、何か荷物とかその、何か持ってこなかったのかな?」

「荷物ならあるよ。あそこ!」


 指さす方をみると、机の上に赤色のランドセルが置かれていた。

 今更だが、桃ちゃんって見た目に反して小学生なんだよな……。


「なぁ、背負ってみる?」

「んぁ? 良いけど?」


 何故背負う必要があるの? という虚を突かれたような声を出しつつも、素直にランドセル背負ってみせる。まぁ、意味はないんだけどね?


「ううむ、犯罪的だ」

「何よー! 私何も悪いことしてないよ!」

「それで、中に何入っているのかな?」

「勿論、宿題!」


 ですよねぇ。着替えとか入ってるわけないですよねぇ? 昨日と同じ服を着続けているから、まさかとは思ったがそのまさかだった。


「後、1万円札が一枚あるの!」

「へぇ……」


 桃なりの自慢だったのだろう、ランドセルの中に隠していたお金を見せびらかすと、ドヤ顔をしつつ元の位置に戻していった。


「桃ちゃん? お金は大事だから隠している分は教えちゃだめだからな?」

「はぁい」


 どこまでわかっているのやら。さて、それよりも今は。


「桃ちゃん、着替えとかないよね?」

「無い、ね。無い、無いですっ! 大変です、どうしようお兄ちゃん!」


 そもそも小学生が単身で一度会っただけの男の部屋に入り浸っている現実の方がどうしよう! だよ。


「飯食ったら服でも買いに行く、か」

「うんっ。お腹すいた!」


 あー、本当に、本当に少しだけ期待してたんだ。実は家事がめちゃくちゃ出来て食事サポートをしてくれるスーパー小学生だったらいいな、とか。


「ハンバーグ食べたい!」


 朝からハンバーグをねだりますか。

 まぁ、俺も一人暮らし始めるまで料理なんて出来なかったしどうこう言えた口ではないが。


「そうか、作り方は知ってる?」

「家庭科の授業で習ったことある!」

「よしよし、それじゃ一緒に作ろうか」

「はぁい」


 桃と一緒に料理をしつつ、一時間に一度時計チェックを試みて体内時計の調整を行う。パソコン関係については、パソコン操作中にするしかないので後回しである。


 こうして幼女との時間を過ごし(過ちは無かった)、三日があっという間に経過した。


「ごめーん、とりあえずRLの闘技場で落ち合うように指示しといたから、フレンドに届いているノーテンってキャラとコンタクトとって。そこで彼から技術を盗んできなさい」

「はい、師匠」


 桃の宿題を見ながら、そんな電話を終えると俺はパソコンを起動させる。

 続いて、RLへ没入すべく準備を始めた。


「桃、悪いけどRLのプレイするからまたあとでな」

「はい、兄様」


 ビキニ姿でそう受け答えた桃の姿を拝んでから、俺はダンボールの部屋をロックした。

 念のための補足をしておこう。

 どうやら桃は俺と同族らしく、部屋の中では下着派という事が判明。桜も同じく下着派らしいが、問題は桃の下着姿いこーるショーツのみ、というちょっとしたイベントがあったため、水着で我慢してもらうことにしたのだ。


 桃も、家の中で水着でいるイレギュラーにキャッキャッと喜んで着用してくれたのだった。


「一日ぶり、か……」


 フレンドリストには新規で『ノーテン』というキャラからの申請があり、『サクラ』の欄は未ログインである灰色表示だった。


「まぁ、あんなことがあった後だしな」


 一人愚痴る。もしかすると桜がRLに戻ってくる可能性は無いかもしれない、それでも心の中ではヘルダンジョン10階層を一緒に突破するのは桜とだろう、という気持ちが残っていた。


「うし、没入」


 午前11時5分ジャスト。約束の時刻に1分1秒違わずログインを決めた俺であった。

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