026.ウィルテイクユゥ(3)
「***にぃちゃ***ん、お***ん……お***て」
ん、誰だ俺を起こす奴は?
確か俺は昨夜、帰って来たと同時に力尽きベッドに辿り着くこともできないまま倒れたのが最後の記憶だ。しかし俺に話しかけてくるこの高い子供声、そして未だ滲む視界にぼやけながらも見える姿はどうみても子供。
そう、幼女桜の姿だった。
「お、れは……」
やっと絞り出せた声は、確認のための言葉だった。
そんな俺に対して、幼女桜はパァっと笑顔をみせた。その瞬間、俺の視界は光に包まれたかのような錯覚を覚え、視線が幼女桜にくぎ付けになった。
考えろ。間違った即断は無意味、だがしかし、即断を極めなければいけない。それが、俺に課せられた課題なのだから。
幼女桜が俺の上に馬乗りになるシチュエーション。俺が忘れているだけで、帰ってきてからRLの世界に再び没入をした? 時間装備が取れず今度は俺が助けられている番? いや、そもそも幼女桜が居るという事は時間装備無で再び第二階層へ降り立ったのか? いつ、いつだ? そんな愚行を犯したというのか俺は?
そして最終的に重要な答えに辿り着く。
幼女桜が俺の上に居るということは、俺を庇ってくれているシチュエーション。そして俺が目を覚まして喜んでいる現状。
俺は今、幼女桜に庇われて俺だけが生き残ろうとしているのか!?
俺の心の中に宿ったこの気持ちは、幼女桜が襲われていた時に無力だった己の無力さ。目を瞑ってしまった己の情けなさからくる、後悔の念。
俺はもぅ、俺はもぅ!?
何度も自身への問いかけを繰り返し、俺は辿り着いた答えを掴み取る。
「ひゃ、おにぃ、ちゃ、ん……」
「俺が、守るからっ!」
少し背を浮かせると、幼女桜の腰へ手を回し思いっきり抱き寄せた。
よし、まだ体は動く。
幼女桜の顔が真横へ迫ると、抱き寄せられるがままに耳と頬を摺り寄せたまま俺は体を捻る。
覆いかぶさり、桜のログアウトまでの時間を稼ぐ。
その間、何が有ろうと俺は耐える。
耐えて見せる、今度こそ。
そう誓い、幼女桜の体温を全身で感じながら強く抱きしめる。
一瞬かわした視線は、潤んだ瞳をキラキラさせながら熱っぽい表情をしていたような、気がする。
「おーじゃまーしまーす!」
第三者の声。これが今回の二層の敵、か?
「居るー? 昨夜居なかったけど、まさかアンタァ、朝帰りとかそんな面白い事ぉ」
ガララッ、と聞きなれた扉の空く音が聞こえた。
俺は恐る恐る抱きしめる力を緩め、幼女桜をしっかり見据えるべく体と体に少しの空間を作った。
「面白いどころじゃなかったぁぁぁ! よ、よよよ、よ、幼女監禁!?」
「あるぇ?」
「ア、アハハ」
思わず疑問符を浮かべた。ここはRLの世界、ではなく現実の世界で?
では、目の前で照れたような笑みを浮かべるこの子は一体。
「お兄ちゃん、激しかったです」
「くぁあああ、やっぱり若い子がええんか!? そうなんか、アンタもその口かぁぁぁ!?」
スポンッ、と栓を開く音が聞こえるとグビグビグビィ、と何かを呷る音が聞こえた。
今度は即断なんかせず、考えるのを止めその声の方を振り向く。
「綾、さん……と、すると君は」
「もぅ、お兄ちゃん、そんなに見つめられると桃恥ずかしいです」
何ということでしょうか、相棒の妹君と思いっきり抱き合っていたようです、俺。
「あの、とりあえず落ち着こう、な?」
「私はその、いつでも」
「うああああ、男なんて思わせぶりだけで皆、皆ぁぁぁ」
桃も、綾さんも落ち着こう! な? さて、起きよう。
起き上がると、部屋でのいつもの姿になるべく俺は下着姿へなるべく服を脱ぎだしていた。




