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025.ウィルテイクユゥ(2)

 トン、トン、トンと階段を登る足音が二つ、いや三つか。

 俺はくるべく自体に備え、背筋を伸ばして正座をした。


「この子がそうかしら?」


 まるで見たくもないゴミが視界に入ったかのように見下して告げた。

 スタイルが良く、身長も高めで黒髪ストレートをなびかせながらその人、桜の母親は続けた。


「来なさい」

「はい」


 立ち上がると、言われるがままに桜の母親の後、に続く桜とその妹を追う。ぞろぞろと階段を降りると、居間に通され桜が椅子を引くとそこに着席させられた。


「さて、貴方は一体私たちの家で何をしているのかしら?」

「あ、あの」

「喋らないで!」


 問いかけられたので、何かを応えようと声を出すと正面に座っていた桜の母親が喋るなと言ってくる。

 いや、確かにいきなり現れた見ず知らずの男の子が娘さんの部屋に朝から居たとなると、声も聴きたくないだろう……が、理不尽である。


「私の娘に、何をしたのかしら?」

「ぅ……」


 声を出そうとするとキッと睨まれたため、視線を落として無言の肯定を示した。


「……そう、あなた、名前は?」

「お、俺は」

「黙りなさい、あなたの言葉がどれだけ信じられるっていうのかしら? ねぇ?」


 やはり喋るのは不正解か。だが、問いかけに対してこれでは何も答えれないではないか。


「もしもし、はい、すぐに調査して」


 ピッ、と瞬く間に携帯を取り出すと『調査して』とどこかに連絡をとっていた。


「桜、桃、二人とも上で大人しくしときなさい。私はこの人と話があるので」

「「はぃ」」


 せめて桜は俺が居る理由を伝えてくれてもいいのに、と思いつつも目の前の圧倒的な両親ラスボスに自分の意思を表明することが出来なかった。


「遅かったわね」


 無言のまま見つめあう事5分。体感では永遠の時の中に取り残されたのでは? と疑いたくなるほどの時間だった。やっと声を上げた桜の母親は、電話ごしに入ってと言うと再び俺の目を凝視する。


「お待たせしました、奥様」

「遅いわよ。さぁ、教えなさい」


 一体何が始まるというのだ?


「この青年は**高校の二年生で、**才。名前は」

「ちょ、ちょっと!?」

「良いわ、それよりも将来性はどうなのかしら」

「ハッ、旦那様と同じか、それ以上も望めるポテンシャルは秘めているかと」


 まさか、まさかたった5分で俺の事を調べ上げたっていうのか?


「へぇ……続けなさい」

「ハッ、成績だけで言えば全国の上位100位以内という微妙な順位ですが、人脈はゲーマーのプロに大物芸能人が居ますね。又、大学も推薦で既に研究室が決まっているとの情報です。それも、育てた弟子と共にというので、頭の方は問題ないでしょう」


 こいつっ。弟子というが、勝手に強くなって勝手に先生と呼ぶあのバカの情報まで……それに、師匠の情報も。だが、芸能人の知り合いという部分だけは心当たりがなかった。


「ゲームのプロ? 微妙な人脈ね……でも、大物芸能人は気になるわね。大学もどこなの?」


 な、何だこの人達は。俺のプライベートを何だと思ってやがる!

 と、胸中で叫んだ。


「ハッ、このゲームのプロというのも中々に年収が凄く、旦那様の数倍は軽く」


 ガタッ。


「芸能人の知り合いも、和田綾乃さんです」


 ガタタッ。

 めっちゃ反応してますが、その人俺知りませんよ?


「この前引退したあの? ……オホン、まぁ良いでしょう」


 隅から隅まで調べ上げたようだけど、俺は一体いつ発言を許されるのだろうか。


「さて、娘からはイイ、という偽名で名を聞いているわ。そして娘があなたを呼び込んだようだし、今回だけは見逃してあげる」


 何て上から目線っ! だが、俺は許される、のか?

 てか、桜とのやり取り聞いててここまでしたのかアンタはっ!?


「……ああ、発言を許すわ」

「あの、俺は」

「私はね? どこの誰だかわからない凡骨に娘をくれてやろうとは一切考えていないわ。ただ、あなたは行動力が有りすぎるのが問題なだけで、有望そうだからこのままお金持ちになりなさい」

「はぁ……?」

「お金をもっているのなら、喜んで私は娘を送り出せるわ」


 な、何て母親だっ。


「そういえば、旦那も年2回しか返ってこないから……」

「し、失礼しました! すんません、許していただいて! 俺は、これにて!」


 身の危険を察知した俺は、何度も謝ると裸足のまま玄関を飛び出していた。


 結局、急いで帰りたい思いにかられてタクシーで帰宅すると、ドッと疲れが出たせいかベッドに辿り着く前に力尽きていた。

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