022.ミスティックナイト(8)
「さぁ二人とも、そこに座りなさい」
「「は、い」」
「そんな身なりで何も対策せずにうろついてるもんだから、よっぽどの強者かよっぽどの馬鹿かと思ったのだけど、どうやら貴方達は後者だったようね? そもそもそんな裸のような恰好だとすぐに致命的な攻撃受けて死んじゃうわよ? ねぇ、わかっているの!? もぅ、本当に近頃の主候補は本当たるんでるんじゃないかしら? 思えば自称ならず者とかいうくらいだし、その時に気づくべきだったのよ私も。あぁもぅ! そんな顔してもダメ! 理解しようとしなきゃすぐ同じ目に合っちゃうわよ? 本当よ! 危険なのよ!?」
そんな一通りの説教をくらった後、次は無いから、とだけ言い残して再び去って行ってしまった。
「ねぇ、イイ……」
「ん……?」
「これって、ゲーム、だよね?」
「あーうん、そう願ってるところだ」
「否定はしてくれない、のね」
貴重な食料と、干し肉を二切れと少量の水を交互に口に含み、体が満たされていく感覚にこの世界が実在するのではないのか? この世界に本当に降り立っているのではないかと思う程に、味覚までもが再現されていた。
「ログアウト、するか?」
「……その方がいい気がする」
少しだけ引っ掛かったのは時間対策装備無で帰還すると、精神負荷が激しいというラーシャさんの説明だった。まさか、現実に戻ったら本当に子供の姿になっているとか、無いよな?
「一度戻ろう。ここは今の装備で探索すべき場所じゃない、それだけわかっているのだからもう一度最初からやり直そう」
「うん……イイ。援護できなくてごめんね、それじゃ」
俺達は指をピンアウトさせ補助ウインドからログアウトを選択した。
視界が暗転し、空気感が元に戻る。ゴーグルに手をかけ、外した状態で体をぺたぺたと触る。
「うん、声もいつもの俺の声だ。体もいつもの俺、痛みのあった背中に特に異常はないし、不自由は何もないっと……がっ」
がっ、と思わず声を出し崩れ落ちる俺。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
これは俺の声ではなく、腹の声である。
「め、めちゃくちゃ腹減ってるじゃねぇか……」
耐え難い空腹感に襲われた俺は、這いずるように台所まで移動して食料漁りをした。
この時、没入から僅か数十分。
時計の針は3時21分を指していたのだった。




