212.真ラストダンジョン(23)
「あ、あんた達何やってんのよ」
思わずそんな言葉が漏れ出ていた。
上半身裸のイイの上に馬乗りになり、私たちが戻ってきたにも関わらずお構いなしに体中にキスをしていくサクラの姿に、後続に続いた皆もそれぞれな反応をみせていた。
もっとも、一番反応が強かったのは敵だった二人だったのだけども。
「なっ、何やってんだよ! おい、そんな事してっと時の支配者に殺されるぞ!? そもそも、次は私の番だと何度も懇願したじゃないかっ!?」
「女性の比率が増えすぎ。浮気、良くない」
そんな言葉を発しながら二人の元へ近づいていった。
サクラはともかく、自称生身のイイに近づけても良いものかと悩んだが、台詞の内容からしてこの敵とは知り合いなのだろう。なので、一旦様子見をすることにした。
「サクラ、誰か来てるっ、来てるから! 目隠しとって、お願い!」
「だーめ、と言いたいけどあまり見せつけても悪いかしら?」
「もう見られてる!? ダメ、速く取って! どいて、お願い!」
「もぅ、お願いばっかしなんだから」
「「殺す」」
瞬時に殺気を放った二人に対し、サクラが口早に何かを呟いた。
「 」
読唇術の心得があったとしても、とても追える口の動きでは無かったし、そもそもその口元から漏れ出た吐息に意味があったかのかもわからない。ただ、ソレがサクラによって発動させたという事だけは理解出来た。
「う゛っ」
サクラから手前1m程の距離で、両膝を地面につき動きを止めた二人の姿が視界に入った。先ほどまでとらえていた速度を遥かに上回る行動に対し、サクラは対応したのだ。正直、今の速度で巨大斧を振るわれていたら対応が出来ていなかったと断言できる、それほどに二人の敵が詰め寄る速度は異常だった。
「もう、そんなに焦らなくても。イイにお客様よ、浮気はダメだからね? 絶対だよ」
「客? ダンジョン内で? いや、そもそも浮気も何も俺の嫁は……」
「大丈夫だよ、私の目の前に出てきたらちゃーんっとイイは私のだって体と心に教え込んであげるからね」
「不安しかねぇ! っと、やっと外してくれたか。ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」
「……えーと、もしかしてもしなくても、ギードとクーコ、さんだよな?」
「早く、このバカげた重力操作を止めさせて」
「この二人を足止めするとは、さすが相棒……って、二人とも知り合いだから解いてあげて?」
「うん。でも、その殺気を消してから」
「「ちっ」」
「ったく、急に居なくなったと思えば知らない女性達をはべらして、説明してくれるん?」
「私も説明を要求する」
「あー、えーっと、俺からも聞いていい?」
「うん」
「それじゃ、クーコ。俺の消えたタイミングっていつ? どこまで記憶がある?」
「消えたのはバーベキューが終わった頃。勝手に進んだんだと予想して、私達で進むもドラゴンの階層で流石にここを一人で進んだとは思えないという判断故、戻ってきたところ。この階層のドッペルゲンガーは屠っといた。そこで殺気を放ってたこの人たちと遭遇。そこのセンスが一番良い人の戦闘中にみせるタイミングの見せ方が救世主様に似てたから、すぐにわかった」
「そうそう、お前の弟子か何かだろ? まぁタイミングだけじゃ私達には勝てないけどな!」
ぶっ、と吹き出すイイ。
「いやいやいやいや! あのお方は俺の師匠だから! 基本の地盤は全部菜茶さんに教えてもらったの! うん、それはともかく。攻略後の記憶は無くて、無限BBQ後に皆で進んだ感じかぁ」
「そういや、とととの奴と似た力持ってるやつもいたなぁ? 気が合うんじゃないか、あの二人」
「ギード、今はそんな話は後回し。イイ、私たちはどうしたら良い?」
「そうだったね。どうすんだ? 何か繋がりの力も感じないし、何か体つきも貧弱になってないか?」
少しの静寂の後、イイは答える。
「実は俺、生身に戻ったんだよね? だからお前たちは既に自由人、つまり本当の意味で自由になってるはずなんだよなぁ。以前のような筋力も体力も、魔力も技術も今は何も残ってないよ、俺には」
「「……で?」」
「で、って、つまり二人とも自由なわけだし、他の皆も自由の身だ。こんなダンジョンに止まらないで好きに生きて良いんだよ」
「だから、私たちはどうしたら良い?」
「そうだな、私も強いお前が好きだったんだけど、強かった(過去形)お前を守るのもやぶさかじゃないね。で、どうしたら良い?」
「お前ら……思考放棄か!?」
「「ちがわい!」」
「冗談だよ。自由な身でありつつ、俺についてきてくれるのなら、地球の為に一肌脱いでくれたらうれしいなぁ、とか」
「最初からそう言えば良い。わかった、付き合う」
「だな。と、いう訳で私達もアンタ達と行動させてもらうから宜しくな!」
と、言う感じで強敵二人が仲間に加わる事となった。
何度か繰り返し挑戦すれば攻略の道筋はつかめるだろう相手だけど、そんな二人を従えているイイという男は、やはり別格なのだろうか。そして、そんな二人に目もくれぬサクラの実力は一体どれほどなのか。ふふ、もう人類最強とか言ってられないな、私は。
簡単な紹介を終えると、私たちは既に屠られていたドッペルゲンガーの居ない第三階層を突破するのだった。




