211.真ラストダンジョン(22)
ゆっくりと歩み寄ると、敵も同様にこちらへと歩みを開始した。
力は相手が完全に上、絡め手を使っても毒が効いている様子もなければ、遠距離攻撃も効かない。
何故か最初は氷壁で防がれたけど、近距離による紅の攻撃のいくつかは被弾したにも関わらずダメージを気にしている様子も無い。
つまり、あの敵を倒す為の何かが欠けている事になる。
攻撃力不足? 弱点属性が必要? そもそも氷壁を扱う後方で待機している方については補助しかしてこないが故に、戦闘力に関して未知数である。氷の礫でも飛ばしてこようものなら、私たちはひとたまりもないかもしれない。
「今回は退いてあげないわよ」
試しに声をかけてみると、期待通り返事が返ってくる。
「今回? 何だ、お前と会った事があったか? しかしはて、気になる。お前とは何故か楽しめる気がするよ!」
ものすごい笑顔でそう言われると、悪寒が走る。
気が付いた時には斜め一線、巨大斧が体の横を通り過ぎていた。
『菜茶、回避だ』
『わかってるわよ!』
巨大斧が地面すれすれまで振り下ろされてから、ハウルがそんな助言をするので今は黙っといて、と内心で付け加える。
「へぇ、ちゃんと視て避けるんだ」
そのまま切り返しをしようと巨大斧の刃がこちらへ向くが、こちらへ加速をつけ振るわれる前に春一番を差し込む。ゴゥ、と音を立てて地面に突き刺さった切っ先が地面を切り裂きながらギリッと数センチ体の方へ押し込まれる。
「そしてちゃんと受け止めれると、遊び相手程度にはなるって訳か」
「そりゃどうも」
このままだと力押しで春一番ごと砕かれ胴体を真っ二つにされかねないため、春一番の切っ先を自ら弧を描かせながら回転させた。当然、巨大斧の刃が私へと迫りくるが私のタイミングで引いたのだ。
「んなっ」
ガンッ、と全力で刃部分を踏みつけ、巨大斧の軌道を変えてやった。ジェに行った踏みつけの意趣返しである。と、同時に手の甲で回転させた柄部分が再び手の平へと戻ってくる。
左手の手の平を柄を押し込むようにあてると、その勢いで切っ先を敵の瞳目掛けて突き出す。
しかし、指日本で切っ先を掴まれると後数センチといったところで勢いが完全に失われた。
「まだっ!」
切っ先から強風が巻き起こり、片目を潰したと思った瞬間だった。
「はい交代」
「チッ」
またも氷壁が瞳を覆い、完全に防がれてしまった。
銃之支配による、銃撃も手段としてはありだが、あくまで銃。人などの生物に対しては絶対的な火力があっても、目の前の敵には火力不足が否めない。よって追撃はせず、高攻撃力を誇る春一番での近接を続ける選択しかない。
しかも、このタイミングで静観を続けると思われたセーラー服少女が前に出てきた。
「私もその子、気になるから交代。早く退け」
「あーあー、折角遊んでたのに結局邪魔するのかよ」
「目潰しされかけてたよね」
「うっ、あんなの一瞬で治るから目つぶしにもなんねぇよ!」
「その一瞬であの子、色々仕込んでくるわよ?」
「……わかったよ、一時交代な!」
「そんなわけで、私が相手をしましょう」
「そりゃどうも!」
再び間合いを取るも、こちらから出来る事といえば攻撃あるのみ。
春一番を両手持ちすると、斜め切り、横切りを交互に繰り返す連撃を浴びせかかる。その都度、氷壁がピンポイントで張られその威力を相殺してしまう。
刹那。
嫌な予感を感じ取る前に、その立ち位置を大きく後退させる。バックステップを二度すると、その足元から氷柱が天井向けてガンッ、と突き出てきていた。
めちゃくちゃ殺しにかかっている。巨大斧を持つ敵はまだどこかで遊んでいる感覚があるのか、隙が見え隠れしていたが、この敵に関しては一切の躊躇無しに殺しにかかってきた。
「ん。十分、この子敵じゃないかもしれない」
「ハァ? あんなに殺意ぷんぷんな奴らが? って言いたいけど、確かに今の動きはなぁ」
どうしたらいい、と逡巡していたがどうやら敵の戦意が感じられなくなり私も春一番を鞘に戻す。
勿論、鞘に戻したところで抜刀術で有名な居合いで先制が出来るという思惑もある。
「なぁアンタ、イイって男に心当たりはないか?」
このタイミングで、何故かイイの名前が飛び出してきた。が、ここは素直に答えておく。
「知っている。私たちの後方で待機中だ」
「ほら、敵じゃなかった」
「ほら、てお前! クーコ、最初と言ってる事ちがいすぎるよな!?」
「ギード、貴方こそ殺る殺る煩かった」
「てめぇ、磨り潰してかき氷にでもしてやろうか!?」
「すぐ興奮するのは悪い癖よ? お待たせしちゃってるわね。イイのところに連れて行きなさい」
何やらイベントが始まったようだが、どうやらこの敵達との出会いはイベント戦。ようするに、会話イベントで進めるのが正解だったということだろうか。
「わかった、からその武器をしまってくれないかしら」
「ん」
こうして、私たちは再びイイとサクラの居るキャンプまで舞い戻るのであった。




