210.真ラストダンジョン(21)
カンッ、と鈍い音と共に交差する巨大斧と鉄扇。
ジャンの全体重のかかった一振りを、片手で持った巨大斧を横に掲げるだけでビクリともせず受け切られる。しかし初手を防がれたところで慌てる事は無い。
続いてジェがスッと身を低くした状態のまま敵の懐に入ると、攻撃を受け踏ん張った状態であろう足元へ鉄扇を振るう。高低の差による二段攻撃、上からくる全力の一振りにジェの低空攻撃。それも足元を掠める程度に振るわれた一撃に反応は出来ないだろう。
そう、誰もが思っていたが敵は最初からわかっていたかのように、ジャンの攻撃を防いだ状態のまま片足を上げ鉄扇を踏みつけた。
「ぐっ」
思い切り下方向へと負荷がかかった鉄扇を握り続ける事は出来ず、ジェは体勢を崩しながらも武器を手放し後退する。同じく勢いが完全に失われる前に後方へと飛び退いたジャン。
「おせえなぁ」
まるで相手になってないと言わないばかりに煽ってくる敵だが、ジェは咄嗟に手元に伸びていた線を引く。
「うおっと」
踏みつけていた鉄扇から足を離し、足元を確認する敵。ジェは鉄扇に仕込んであった毒針を隠し糸を引くことにより放出していた。
「ん、こりゃ毒か何かか? 姑息だねぇ」
余裕を見せる敵に、ジャンは足元に向かい黄金の力を発動させる。刺さっていた毒針が黄金化して簡単には毒を抜くことは不可能となった。
二人はそう確信すると、躊躇せず後ろへ下がる。
続いてカタリナととろろ昆布が前へ出る。
「あたいの獲物だから、手出しはいらないからね?」
「無駄な体力は使いたくない、ガンバ」
敵がそんな他愛もない会話を交わす。どうやら毒状態の一人だけしかアクティブ化しないようだ。
「カタリナさん、お願いしますね」
「Yeah!」
タイヤハンマーを振りかぶると、横一線。パァンという音が弾け、カタリナの体が壁際まで吹き飛ぶ。が、敵は先ほどと同じくビクリともしない。そしてついに動き出す。
「来ます!」
とろろ昆布の声が壁際に居るカタリナの鼓膜へと届く前に、巨大斧が真正面へと向かって振り下ろされていた。
パァン、と音が再びダンジョン内に響き渡る。
すんでのところでタイヤハンマーが巨大斧との間に割り込み、衝撃で再び距離を取る事が出来た。
移動先に敵の視線がうつるも、途中でとろろ昆布の姿が目に入り追撃を取りやめた。
「なんかチャラチャラ目ざわりなのも居るな、アイツから先に殺るか」
標的が一気にとろろ昆布へと移るも、密着の力を使いカタリナを自分の元へ引き寄せるとその勢いのまま更に後方まで飛びさがった。
「アレ無理、後退しましょう!」
とろろ昆布がそう判断すると、未だ毒の効果が現れない敵に対し後退を要望する。
カタリナはまだやれると言いたげだったが、先ほどの瞬速で迫る巨大斧に流石に続行は自重していた。
「任せて」
「良くやったよ、とろ」
更に後退した二人とAIと紅が入れ替わり、二人は同時に遠距離攻撃を開始する。
「気功・砲弾!」
「逝きな!」
謎の光の玉が真っ直ぐ飛んでいき、その光に隠れるように散弾銃の弾が敵を襲う。
「えっ……」
AIが思わず声を漏らす。二人の攻撃力は想像を絶する値にも関わらず、薄い氷の膜一枚がその全てを防ぎ切ったのだ。流石にコレは反則だろう、と誰もが思った。
「属性付きの気功も、多段HITの効果力もダメ、か」
しかし。近接格闘のエキスパート、AIは氷壁が解除されると同時に前へ出る。同じく、紅もAIの背後から深紅の銃で敵を狙う。
ダダダダッ、と素手で殴りかかるも片手で全てを防がれ、ショットガンの弾はまさかの鎧や篭手で全て弾かれる始末。
「めちゃくちゃや!」
「ひくぞ!」
「なかなか良い打ち込みだけど、まだまだだなぁ」
そんな台詞と共に巨大斧が振り下ろされる。
が、再びとろろ昆布のサポートによる強引な引き寄せで回避に成功する。
「毒も効いているような感じはしない、効果力武器も60という値じゃ無効化される。となると私が行くしかないね」
私はそう判断して、前へ歩み出た。
『ハウル、あの敵ってさっきの敵と一緒?』
私は念のためにハウルへと問いかける。
『是、ただし会話の行動パターンが増えている』
『そこなのよね、でも敵は敵、言葉を話そうが私達はやるしかないのよね』




