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207.真ラストダンジョン(18)

 キャンプ地へ戻るころには、それぞれそれ相応のデバフがかかった状態に陥っていた。つまり、次を失敗すれば全滅コースまっしぐらな状況である。


 そんな私達の想いを露知つゆしらず、いつの間にか幼女姿から少し大人へと姿見が変わったサクラがイイの頭を膝に乗せ頭を撫でている場面へと出くわした。


「もぅ、そんなに頭動かすとくすぐったいよぉ」

「そんな事言われたって、皆が攻略中にこれは流石にちょっと」

「なーに? 私たちの知らないところで常に色んな事が動き続けているのに、身近に感じて知ってしまったからって行動しなきゃいけない理由にはならないよ?」

「そんな事っ! だぁもぉ、わかったよ、でもせめて外向きにさせてもらうからな? よいしょっと……っととと? あら、あは、皆さんお帰りなさい」


 膝枕をされたままの状況でこの場に唯一居る男の子、イイが苦笑いを浮かべながら片手を軽く上げたのだった。装備集めをする程には時間は無いし、長話を聞いてタイムロスする必要も無いと判断していたけども、ここは私の感を信じて彼等の話を聞く方向へシフトする事に決めた。


「ただいま。と言っても突破出来ずに戻ってきちゃったのだけどね、イイ君、お休みのところ悪いけど少し良いかしら?」

「はい? 何でしょう師匠。あっ、こらサクラ、起き上がるの邪魔するなよ!」

「だーめ! イイは生身なんだから、あんな長距離移動した後に休憩もなしじゃスグばてるわよ?」

「……師匠、すみません、この姿勢のままでも良いでしょうか」


 この話は本当に長くなりそうだ。でも、聞かなきゃここの突破はいくら時間があっても厳しいだろう。


「構わないわ、皆も良いわよね? 少し休憩がてらに話をしましょう」


 まずは私はこの先で出会ったドッペルゲンガーが全く知らない二人の女性ペアであった事。

 私たちの身体能力を遥かに凌駕する前衛女性と、氷の薄壁一つで攻撃を全く通さない氷壁を一瞬で張って見せる後衛女性の話をした。


「と、こんな感じで攻略情報と違う情報が出てきた訳よ。あの敵は普通には絶対に攻略出来ないと判断して戻って来たのだけども、そもそも貴方達二人の情報をもう少し分けてもらっても良いかしら? 皆も気になっているだろうし、ここは時間を割いてでも聞くべきだと判断したわ」


 すると、大人しく頷いたイイが話を始める。


「まず最初に一言。俺って説明が苦手なんで分かりにくい部分が多いと思いますが、そこは師匠たちの理解力を信じて話しますね」


 イイは言う。


「その敵の正体から言いますと、すみません完全に俺のミスですね。ヘルダンジョンの一つにある、戦乙女のダンジョン。そこの祈願者がギードという男の娘で、ぶっちゃけこのゲームのラスボス級の戦闘力誇ってます、得意な武器は斧で、それを手に持ったら本気モードですね。後自動再生もしてきますし、アイツとは二度と戦いたくないなぁ」


「そして後衛に居た女性は氷結の魔女、クーコですね。この子の祈願も突出してて、氷に対する思いがものすごく一途いちずなんですよねぇ。そのくせ見た目は普通の女子高生ときたもんだから、やりづらくてしょうがないでしょうね。ちなみにあの氷は刺突系の連撃で砕けますよ? 懐かしいなぁ、氷結のヘルダンジョン」


「そんな二人ですが、俺がかつてRLデバイスでこの世界を攻略して仲間になった二人なんですよね。このダンジョンの攻略時に、一緒に行動していてその時にドッペルゲンガーとしてコピーされちゃったのが、残ってたようです」


「えっとその、俺ってば一度攻略しているんですよね、ここ。でもその時には既に地球も消滅していましたし、何とかして地球が生き残る道を探ったんです。あぁ! 一度全部壊れたのにどうして今があるのかっていうのは、俺が救世者として救い出した少女、時の支配者の祈願の力を名一杯使わせてもらった訳で! つまり、全世界の、全宇宙の時間を巻き戻しました。通常、認識外の事象に関してはいくら強く祈ろうと知らない訳ですから意味が無いんですが、そこは頑張って全宇宙を把握したので間違いなく時間の巻き戻しは成功しましたよ。その代償としてRLの体がキャパシティオーバーで壊れちゃいましたが」


「それで俺の存在自身が複雑な事情でこっち側で固定されちゃったようで。ちなみにサクラだけは、俺の奇跡に干渉しないように立ち回ったようで、それも俺と同じかそれ以上の時間をかけて俺を探し出してくれたようで。正直サクラが居なかったら俺は時間を巻き戻した後、命を落としていたでしょうね。いや、その、今頃だけどありがとうな?」


「イイ、相変わらずお話が下手ね。でも、そんな貴方がいとおしいわ」


 ふむ。

 つまりこの男は時間を操り、私たちにチャンスをくれたと。

 私達は知っている、一度地球が大地へ崩れ落ちた事を。

 その後、この大陸で過ごした時間を。


「ちなみに、RLデバイスを用意した人物の事は俺にも掴めませんでした。きっとこの広い宇宙のどこかで、この危機を救うために誰かが俺達に『この宇宙を救ってくれ』って、そう祈願したんじゃないかなって、そう思ってます」


「なぁサクラ、俺の為って言うなら俺は帰る場所が無くなるのは嫌なんだよ。だからさ、ドロップ品を皆にわけてやってくれね?」

「ぶー、全部イイの為に集めたものだもん……っていつまでも言ってられないよね。イイは戻ってきてくれるの?」

「勿論」

「……皆さん、これはイイと私が幾年もの時を重ねて収集したアイテム群になります。私はイイを守らなきゃいけないから、攻略はお任せします。イイの帰る場所を、地球をお願いしますね」


 サクラが頭を下げると同時に、私たちの周囲には大量のアイテムがドロップしたのだった。

 どうやら、話半分しか理解は出来なかったけどもこの選択は間違いじゃなかったとそう思うようにした。

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