205.真ラストダンジョン(16)
誰から次の階層に降りるか相談した結果、ランキングの低い順から第三階層へと侵入する事にした。
必然と、私達第一チームが後から入る事になるのだが、一応理由はある。
「ドッベルゲンガーは二体だけど、先に入った誰かが優先されてコピーされれば良いんじゃない?」
と、紅が説いた戦術を採用する訳にした訳だ。まぁ、何の保証も無い気休め程度だけど『私』がコピーされなければ何とかなるだろうというのが皆の見解である。
私のコピーが相手だろうとコピーに負ける程やわなプレイヤーではないと自負しているのだけどね。
そんな思考にふけりながら、第二チームのAI、Emma、とろろ昆布、紅と降り、続いてカタリナ、ジェ、ジャン、私と後を続いた。
体が再構成されるのを待たずに、視野の先にある布のカーテンの中へと飛び込んだ。
「わっ、はやいっ!?」
とろろ昆布が口に手を当てながら私の出現に驚いて見せている。
第三階層。
肥大化する迷路には安全エリアが用意されている。
「物干しざおに巻いた布でデバフを抑えるなんて、何でも有りねこの世界」
思わずぼやいてしまう。ここはイイと呼ばれる男があらかじめ用意した時間停止エリアである。が、スポーン地点より少し離れている為、第三階層へ降り立った瞬間に移動しなければデバフの影響を受けてしまう。
「とろろ昆布も菜茶さんくらいキビキビ動こ?」
紅が見上げてとろろ昆布へ指摘している。
どうやら身長が少し伸びているように見て取れる。
「私も身長伸ばしたかったわぁ」
「キィッ!」
そんな身長の伸びたとろろ昆布を見あげているのは、両胸を腕で支える仕草をしてみせるEmmaである。元々胸が大きいとは思っていたが、どうやらEmmaも影響を受け胸が肥大化しているようである。
そんなEmmaの胸元をガン見しながら威嚇するとろろ昆布は、私以上に胸は……。
「まぁまぁ。他の皆は問題無いみたいね」
私の台詞に頷いて見せる面々。こういうところが、上位陣とランクプレイヤーとの差というものだろうね。
「さっ、皆コースは頭に入ってるわね?」
再び頷く一同。ここから先はレースといわんばかりに駆け足となる。道中に出現する敵については、倒せないと判断すれば距離を取ってより強い人が倒すのを見届けてから進む、というルールにしている。
仮に私が敵サイドならば、誰一人後ろに通すつもりはないだろうし、弱者を狩りつつ強者と敵対するのは当たり前の行動になる。つまり、無視して通り抜けようと考えるのは愚策なのだ。
そして二人一組になり、10秒おきにスタートを切る。
先行はAIととろろ昆布、次に紅とEmmaと続き、ジャンとジェが続いた。
「私達も行きましょうか」
「ええ、だけどその前に一つ良いかしら?」
カタリナがニィ、と悪い笑みを浮かべて私は察した。
「あら、私より早くチェックポイントまでつく自信でもあるのかしら?」
「ふふ、本当に話が速くて良いわ! マイティ、私とどっちが先にチェックポイントまでつくか勝負よ!」
「世界最速の貴女が、乗り物を使わずどこまで出来るかみせてもらおうかしらね?」
「私は競争は『全種目』で最速よ、勿論走りだって例外じゃないわよ!」
ダッ、と地を駆けたカタリナの背が視野に入った瞬間、私も自然と体が前に出ていた。
チラリと視線が私を捉えたカタリナがチッ、と舌打ちしていた。
最初の抜け駆けで差をつける事が出来なかったのだろうけど、舌打ちしてからは視線を前にのみ向けるあたり流石最速の女というべきか。
全力で走っても、背中半分くらいの差を縮める事が出来ずほぼ並走状態が続く。
「右ッ!」
とか言いつつ左に曲がるカタリナの性格の悪さが垣間見えた。
「そんな原始的な誘導、私には効かないよ?」
「ダッ、何でついて、コレンノ、ヨォ!」
コースは完璧に頭に入っている。相手を混乱させるために言霊でコースを誤らそうとするテクニックは悪くはないが、相手が悪かったわね。




