203.真ラストダンジョン(14)
私の隣、前線より少し下がった場所を通り過ぎると男は立ち止まり、女はそのまま進んでいく。
『女の子の方はまだ子供!?』
私は胸中で驚きつつも、子供の反射神経は舐めてはいけないと意識を切り替える。
「ねぇ、君」
「ん、あ……あああぁぁぁぁぁ!!」
突然驚きの声を上げつつも、もの凄く嬉しそうな表情をしてみせる少年、いや青年か。
「し、師匠。お久しぶりです、あぁ、本当に久しぶりです!」
突然師匠と呼ばれ、周囲で戦闘中だった子達が折角削れてきた敵ゴーレムの回復もお構いなしにザッと前線から引いてくる。
それと入れ替わるかのように一人の少女が歩み出るが、周りは誰かもわからない人物よりも、誰かはわからないが私の事を師と呼ぶ青年に興味が勝っていたようだ。誰も引き留めることなく後退してくる。
「菜茶さん、お弟子さんをとっていたんですか?」
最初に突っ込んできたのは紅だった。
正直に言うと全く持って記憶にないのだけども、他の面子も追従してくる。
「マイティに弟子はいないネ! 少年、誰かと間違えてるネ?」
「目、悪そう」
ジャンとジェに絡まれるも、アハハと苦笑いしつつ『俺の師匠は菜茶さんだけですよ』と言い張っている。
「男の子の師弟関係って憧れるなぁ」
前かがみに少年の瞳を覗き込むとろろ昆布さんや、青年の目線が泳いでいるのに気づいてやりなさい。
「はぁ、貴方のせいでまた最初からやり直しじゃない」
「いや、師匠こそなんでスクロール使っちゃわなかったんですか!?」
「あのね、あんな強力なの第二階層なんかで使うわけないじゃない?」
「そっ……なるほどです、流石師匠です」
「あのねぇ、君に師匠呼ばわりされる覚えはないんだけど?」
私の言葉に、瞳を一瞬輝かせてみせるもスグに笑みを浮かべ応えてくる。
「そう、ですよね。すみません、一般人の俺にはあまりにも遠くて、あまりにも近すぎた存在ですよ、ね……それよりも!」
何? 何か私が悪い事言ったかしら? なんでこう、胸がモヤッとするのだろうか。
「皆さん、攻略宜しくお願いします! 地球が滅ぶなんて、俺嫌ですから」
シン、と場が静まり返る。
ここに居るメンバーはあの日と、それから先の数年間の記憶を持っている。
この青年も記憶があるのかもしれないが、地球を守ろうと動き失敗した私達の気持ちも知らないで何様なのかしら。
「勿論よ。私たちはこの道のプロなんだから、ささっと攻略しちゃうわよ」
「はいっ!」
で、そんな私たちの会話中にたった一人であのゴーレムを抑えつけているあの幼女は何者なのだろうか。
「おーい、サクラ! 師匠たちみたく遊んでないでヤッちゃって良いよ」
「ん、それじゃ遠慮なく」
大声で叫び声を伝える青年が呼ぶ幼女の名はサクラというらしい。
いや、それよりも。
「何? 一人であの堅物を倒せるの?」
私の疑問に同じくまさか、とプロゲーマー八人の視線が幼女へと注がれる。
「サ サ サ サ サ ザ マジック」
それは一瞬だった。
ドロリ、と大地の焦げる匂いが空間を満たすと、熱気が空間を支配していた。
同時にゴーレムの体勢が崩れ、ぐにゃりと大地に体を沈ませていく。
「サ サ サ サ サ ザ マジック」
再び魔力を消費する、スクロール消費・もしくは祈願の力だろうマジックを唱える。
が、次に発生した事象が先ほどと異なった。
「うっ」
思わず声が漏れ出る。
熱風に晒された体を、今度は冷凍庫なんか比じゃないほどの冷気が場を支配していた。
ブルリ、体を震わせながらソレを見ているとバリッ、とえげつない音を皮切りにガガガガガッと音を立て堅物の体中に亀裂が入りそのまま砕け散っていく。
核も例外なく、完全に砕け散り光の粒子となってデスポーンしたことを確認させてくれた。
スクロールを使った形跡はない。祈願の力にしては、熱したり冷ましたり、真逆の力を使っているのは何故か? いいえ、熱を操作する祈願が存在すれば、可能なのかしら?
色んな可能性を考えるも、青年がブワックションと盛大なクシャミをした瞬間そんな思考から現実に戻される。
「さ、サクラァ……生身にはこの温度差はヴァックション」




