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202.真ラストダンジョン(13)

 一時間が経過し、私達は疲労を感じ始めていた。

 実際には、現実での水分補給や空腹を満たしさえすればこのローグライフの世界と強くリンクした状態では疲労は無いにも等しい。にも関わらず、私たちは間違いなく疲労している。


「削りが甘いっ!」

「喋る暇ないヨ!」

「ちょっと、負担かけないで二人とも」


 久方ぶりに交わされた言葉はこれだけ。

 後はひたすらヒット&ウェイの攻防を続けているのだが。


『菜茶、敵ゴーレムの体力はおそらく全回復したと推測される』


 胸中で思わず悪態をついてしまう。

 私たちのいかなる攻撃も最低保証の1ダメージしか入っていないようで、削った先から超回復していく巨大ゴーレム。まさかここまで物理的に桁違いのボスが存在するとは想像もしていなかった。


 カタリナの攻撃が弾かれ、最低保証のダメージすら与えられずジャンの鉄扇がカンッ、と乾いた音と共に弾かれジェの大剣が何とか一撃入れるも、立て続けにノーダメージが続き瞬時に回復されてしまった。


 私も幾度となく蹴りを放つも、このままだといずれリアルの股関節が外れてしまうのではないかというほどに蹴り続けている。


『菜茶、現実の体は棒立ちだから気にしないで良いぞ』

『煩いわねっ!』


 一体何のフォローよ、全く。


 長期戦だろうと、削り続ければ問題無く倒せると思っていただけに、想定外の硬さに自己修復と私の中のクソゲー水準がグンと上がった。


 スクロールや、奇跡の力も既に魔力が空になるまで使い切ったがそのどれもが効果が薄く無駄に終わっていた。


 それでも、私たちは不可能イベントだろうと突破出来るのだと信じ戦い続ける。

 やがて、カタリナが不穏な一言を発する。


「そろそろリアルで休憩入れないとヤバくない?」


 何がヤバいか? 今のリアルの私たちは棒立ち状態で、腕すら自分の意思で動かせない程にこちらの世界にリンクしている訳で。

 水分や空腹に関しては、多少の我慢で何とかなる。

 では何がヤバいか。


「私、漏らしても平気ヨ!」

「私は嫌」


 ジェがジャンの意気込みを砕く。

 勿論、私も垂れ流しは御免である。


「倒すまで我慢しなさいっ!」


 思わず私も口を挟んでしまう。

 しかし意識してしまうと、どうもリアルの私に尿意を感じているような、感じていないような。

 そんな気になってしまう。


 ここでログアウト等、また潜入からのやり直しとか御免である。

 ましてや、知って挑んだボス戦で負けを認めたくは無い。


「ハァァ!」


 思わず、飛び上がりドロップキックをゴーレムの胴体めがけ放った。

 体制を崩すことが出来れば、などという期待を込めての大技だったが結果は裏目に出る。


「くっ」


 物理耐性でもあるのか!? 間違いなくあの巨体は後ろへ倒れるハズであった。

 しかし弾かれたのは私の体で、大きな隙を作ってしまった。


 落下する中、好機と読み取ったのか巨大ゴーレムの拳が大きく振り上げられる。

 私をペシャンコに出来るコースでその拳は振り下ろされようとしていた。


『菜茶、アレを耐えれる可能性は1パーセントも無い。回避を推奨する』


 たまにハウルも無茶言ってくれるわよね!? 空中闊歩できるようなチート性能はこの体には存在しないわよ、せめて魔力があれば。


 腕をクロスさせ、振り下ろされようとする拳を受け止める覚悟をした時だった。


「……しょぉ!」

「任せて」


 聞きなれない男性の声が遥か彼方から聞こえたかと思った瞬間、私の耳元で知った声が聞こえた。


 刹那。


 体が大きく横移動したと同時に、真横を横切る大きなこぶし

 私の視界には、私を抱えて登場したAIの姿があった。


「癒しの力、マジック!」


 続いて、漲る体力。いや、これは魔力回復? この力は。


「Emma! それにAIも!?」


 私の代わりに声を上げたのはカタリナだった。


「お待たせしました、菜茶さん」

「苦戦してそうですね、カタリナ?」

「あの、大丈夫です、よね。それより、あれって」

「ここのフロアボスよね」


 私たちの事を気にかけながら、立て続けに表れる第二チーム。

 ジャンとジェの連携に割り込みあっという間に新しい連携を始めたとろろ昆布に、私の横で長剣を構えて見せる紅の姿があった。


「加勢するわ」


 怒涛の巻き返しだった。

 更に一時間の時間をかけ、ようやくゴーレムのコアが姿を現したのだから。

 でも、ここでもう一つの問題が発生した。


「何で核がこんなに硬いのよっ!」


 紅が初めて焦りを見せる。でも、そこで再びあの声が響いた。


「何やってるんですかっ! スクロール使ったらスルー出来る相手ですよっ!?」

「あそこまで削ったら、倒したくなるんじゃないかな?」

「でもっ、いや、うむ……」

「しょうがないなぁ、私がイクよ!」


 8人連携中によそ見が出来ず、その姿を確認する事は出来なかった。

 ただ、男女の声はどこか懐かしいような、そんな声色だった。

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