199.真ラストダンジョン(10)
「本当にBBQセット、ね」
私は思わず見たままの情報を口に出していた。
「見てこれ、美味しそうな牛肉ネ!」
「まさか……食べる気?」
「勿論ネ、ジェは食べないのか?」
「……食べる!」
黙々と肉を焼く準備をするカタリナ、ジャン、ジェの行動力に感服である。
まぁ、食料系は体力回復がつきものだ、私も試してみるとしよう。
皆、思いのほか慣れた手つきでBBQの準備を進めていく。
固形燃料や薪が次々とポップするアイテムボックスに、保冷剤でしっかりと痛まないよう保管された牛肉の重。野菜用のアイテムボックスも、同じくいくら取りだしても尽きない食料に、思わずコレはと唸る。
「飲み物も無限に沸くネ!」
「野菜取り放題」
「こんなBBQ初めてだわ……燃えるわぁ!」
お構いなしに次々に鉄板へとのっけていくと、ジュウゥと良い音を立てて素材から香ばしい香りを立て始める。
そして、おのおのが箸や櫛で肉や野菜をつつき、頬張っていく。
「「「んふぅ」」」
思わず漏れてしまう極上の吐息。
私も思わず頬が緩みこれでもかという程人様向けではない顔をしてしまう。
「これ、凄いわね……」
思わずそんな月並みな感想を吐いてしまうも、皆も同意のようだ。
こうなると不思議な物で、BBQはワイワイと食べるパーティ向けな食事だと思っていたがとんでもない。無言でひたすらに好きな物を好きなだけ焼き、好きなだけ頬張り続けるという時間が続いた。
「くぅ、最初の一口で体力全回復してたのに食べ過ぎたぁ。にしても、中国人はもっと食べ方が汚いかと思ってたわ」
「どういう事ネ?」
「私のイメージはそうだったって事よ。ジャンやジェを見てたら、完全に私の思い違いだったようだけども」
「失礼なアメリカ人ネ。中国のテーブルマナーは世界一ネ!」
「美味カンボでテーブルマナーは覚えた」
「あぁ、日本のコミックのアレね! いやぁ、私も珍しくレースもの以外で読破したわぁ」
「本当、一切謝る気が無いカタリナには私も驚きネ」
「あんた達も似たようなもんでしょ? 謝る前に解決策を出すのが流儀よ」
「謝ったら負けネ!」
「大分違う」
仲が良さそうに見えて、やはり育った国が違えば価値観や先入観に相手の本心を見抜くという一番重要な部分をぽっかりと無視してしまうのは、私達人類の驕りだろう。
地球という、小さな星一つでここまで偏見が先行してしまうのだ、奇跡の力が渦巻くこの宇宙では一体どれだけのすれ違いが起こっているのやら。
「御馳走様。さ、少し休憩をしたら攻略を再開しましょう」
しかし。
私達プロゲーマーは根本の心が皆同じなのだ。
ゲームが好きだという、理解者が故にそんな些細な先入観や価値観は何のその。
しっかりと相手の本心を見抜く事が出来るプロゲーマーという職は本当に、何と素晴らしい事か。
「菜茶、良いけどそのマントまだ着るの?」
「汚いネ」
「きちゃない」
唯一。
優雅に食後の紅茶を飲みながら私は視線を落とす。
BBQに慣れてない私はタレを跳ねさせ、一張羅のマントをタレでベトベトにしてしまっていた。




