020.ミスティックナイト(6)
時間対策が必要、か。
会話イベントだけでも数分、もしくは数十分はあったと体内時計は訴えていたがクロックの進みはどうみても意識よりもスローペースである。
実際にリアルの俺はどんな動きをしているのだろうか? 超高速で歩き、行動し、喋っている? そんな人間やめたような事が出来る訳がない。
そうなると、これは実際の行動とは違う、別操作によるプレイになっているのでは? いわゆる、完全没入技術など。
フィクションでしか知りえない技術だが、脳へ直接電気信号を送って没入する方式だったと記憶している。そもそもが空想レベルの技術なので、何がどうなったら時間操作が再現出来るかは理解不能である。
「なぁ、一度戻るか?」
「んー、お姫様に会ってみたいけど確かに何だか怖いね……」
喋れたり、キャラクターの姿が変化したり。その姿が過去の自分だったり。
突然NPCと思われるキャラクターにフレイバーテキストよろしく、世界観の一部を叩きこまれたり。
本当に、ここはゲームの世界なのだろうか? いや、そう思わせれる程に没入感が強い、それだけなんだろう。
現実はダンボール部屋の中で、デバイスを身に着けた生身の俺がプレイしているのだから。
「怖いと言えば、念を入れて時間対策装備をとってから終わるか?」
「精神ダメージがひどいって、あの人言ってたもんね」
何故かしんみりとした空気が流れるが、そんな意思統一をする前に敵は姿を現した。
「ちっ、暗闇の方から何か来る!」
「あの方向って、さっきラーシャさんが行った場所じゃない!?」
「ああ、迷ってる暇はない!」
俺の脳裏には一瞬、ラーシャさんがあの暗闇でヤラレタのではないかという思いがよぎっていた。しかし、ダンジョンは広く別の道が広がっている可能性も十分にあるわけで。
スイッチを切り替えた俺達は、先制攻撃をしかけるべく詠唱を始める。
だが、これまでの吹き出しとは違い詠唱が声になりダンジョン内に響き渡る。ここで詠唱の弱点が発覚することになった。
「ちぃ、気づかれた!」
俺は毒づくと詠唱が途切れる。桜は詠唱を完了させ発動のワードを唱える待機状態に入っていた。
しかし、気づいた敵は気配を消し一向に暗闇の中から姿をみせようとしなかった。
判断に悩む。
逃げるべきか、戦闘するべきか。
俺達に気づいた瞬間気配を消す程の思考を持ち合わせる相手。
だがいずれはヘルダンジョンで戦闘しなければいけない第二層の敵なわけで、時間装備も手に入れたいわけで。
だから、戦う以外に選択肢はないわけで!
「俺が行くっ!」
コクリ、と頷いて詠唱をキャンセルしないようジェスチャーで気を付けてね、という桜の幼女姿に何故かドキリとしつつ、俺は駆けだしていた。




