195.真ラストダンジョン(6)
早速イメージを展開させる。
人が入れる程度の大砲に、発射された人間がその反動で死んでしまわないように強くイメージを練る。
銃の支配は、発射と同時に相手は死んでいるというイメージより、認識外を縫うような弾速となり、不可避の死弾を放つという結果を伴っていた。
でも知識の無い部分についての実現は曖昧に再現されていた故に、応用も効くという訳で。
『ハウル、図面展開』
『菜茶、準備OKだ』
大砲の細かい仕組みを知らない私でも、ハウルのデータベースにある知識と人が飛ぶイメージを組み合わせて完成する、これが人間大砲。
「マジック、転移砲」
瞬時に生成された大砲は、どこからどうみても大砲である。
「これに乗る、ネ?」
震え声のジャンの気持ちも分からなくもない、がここは私が先に示さなきゃいけないか。
「Oh、大砲に乗って移動かぁ。菜茶、私が先に乗っても良いかい?」
射出に対して怯えているかと思いきや、一番乗りしたいという気持ちの方が強くなるのねこの子は。
レースゲームのランキング1位を我が物に納めているには、それなりの我があるわけよね。
「良いわよ、筒の中にある赤いボタンを押したらカウント3で射出されるわ」
「ほ、本当に乗り込んでるネ」
「別の方法を考えるのもありだと思う」
「提案者が一番ビビってるネ!」
「私は無茶せず稼ぐタイプなの」
「知ってるヨ。あっ、ポチッて音がなったヨ!」
カタリナは乗り込むと行きつく間もなくボタンを押し込んだらしい。
体内時計がカウント3を告げ、そして。
『チュドーン』
「散ったぁぁぁぁ!?」
「そんな訳ないネ!」
「うまくいったようね」
ジェだけ、きょどりつつも私たちに遅れてカタリナの姿の目視に成功したようだ。
目を輝かせながら、散ってない! と安どの表情をみせていた。
「次は私行くネ」
『チュドーン』
「散ったぁぁぁ!?」
「私が突っ込まなきゃいけないのかしら?」
「……さて、ジャンが出来て私に出来ない事はないからちゃっちゃと行かせてもらうわ」
クールにみせかけながら、ちゃっかり漆黒のフルプレートアーマを装備してから大砲の中へ移動してみせるジェ。お姉さん、出来れば黒い大筒と黒い鎧の組み合わせは絵面的に辞めて欲しいな? 映像でみにくくなっちゃうわ。
「ギャッ」
『チュドーン』
「ギャーァアアアアアアアアアアアアア」
ちょっとフライング気味に悲鳴が聞こえたけど、無事ジェも向こう側へと飛んで行った。
さて、後は私だけ。
「ハウル、準備は良い?」
『了、映像はバッチリだ』
「そう」
短く返答してみせると、私も筒の中に入って見せる。
狭くて暗くて、ひんやりとした大筒の感触に何だか秘密基地にでも潜り込んだようで、安心してしまう。
これからここから射出されるっていうのに。
「カウント3、2、1」
『チュドーン』
一瞬気を失いそうになるも、戦闘機の加速度と比べれば大したものではない、と自我を強く保ち目をしっかりと見開く。
『ハウル!』
放物線を描くてっぺんに達した時だった。
ハウルに前方のサーチをしてもらい、私自身もしっかりと前方に構える第二波を視界にとらえていた。
一瞬、あまりにもな光景に気分が悪くなるも、それよりも先にソレは始まった。
「ぁ、、、ぅ、、、っっ」
落下。
自由落下。
この高度から落ちる体験は、好きになれないな。
声を抑えながら、矢の檻から脱出した私は着地地点にスタッ、と華麗に着地してみせると大地がミシリッ、と音を立てひび割れた。
「体力は……本当に半分もってかれたわね」
「そんな事言ってないで、この二人を起こしましょう菜茶?」
「そうね」
気を失いビタンと大地に寝そべるジャンと、頭から落下して大地に突き刺さったジェを起こさなきゃね。
数えきれない程大量に迫ってきている巨大蟻との戦闘になる前に、早くしなくては。