193.真ラストダンジョン(4)
「ハウル、楽曲・グルメレース!」
楽曲が流れ出すと同時に、全員が扉をくぐる。
瞬時に、次の階層に降り立った私達は楽曲が奏でる最初の太鼓の音が鳴ると同時に一斉に駆け出した。
『ヴォォォォン』
大気を切り裂きながら迫ってくる轟音が鼓膜を震えさせる。
ネタはわかっている、巨大な矢が私たちの降り立った地点目掛けて放たれた音が、未だ視界に入らない内から響いてきているのだ。
まるで雷鳴のようなソレに怯み足を竦める事も無く、とにかく駆ける。
「来るわよっ!」
私が忠告するまでも無く、全員四方へ跳躍して回避行動に出る。
『巨大な矢って情報はあったけど、コレはちょっと……』
思わず頬が引きつってしまう。
一番最初に到達した巨大なソレは、私たちの移動到達地点を正確に射抜くように頭上から降り注いだ。
まるでビルがまるまる降ってきたかのような巨大さに、思わず戦慄を覚えたのは隠しようもない。
「こ、これが!?」
ウィスパーで私たちに呟きを届けたのはジェだった。
そう、この矢が情報に間違いないならば……。
『ヴォヴォヴォヴォヴォッヴォヴォ』
鼓膜が破れても可笑しく無い程の轟音に、ピリピリと感じる空気の振動を感じ取りつつ駆ける。
ジェも、流石にアレは防御出来ないと踏んでフルプレートアーマ―を脱いでいる。
「楽曲ストップ! ジャン!」
「そうさネ!」
せっかく前進した皆、前方の空が見通せない程に視界を覆いつくした矢を認識する。
これは想像を絶していた。
人一人でも回避できる隙間があれば全員、回避しつつ前進するプレイヤースキルがあるだろうが、あの量は異常である。
要するに、避けつつ駆け抜けるという選択が完全に無くなった瞬間だった。
「時間を稼ぐから、任せたわよ!」
最初に飛来して大地に突き刺さった巨大な矢の背面に回り込んだ面々にそう伝えると、私は一人前へ出る。
「マジック、銃の脅威!」
魔力を消費して生成した短銃から、飛来する矢の一つを射抜く。
「ちっ」
思わず舌打ちしてしまう。
トリガーを弾いた瞬間、神速で着弾した魔力弾は矢の尖端を削るに留まり、一面に広るソレの勢いを止めるには至っていない。
魔力を消費したのに、全く無意味だというのは面白くない。
『ハウル!』
『計算完了、ターゲット箇所へ3連射だ菜茶!』
私は攻略指示に従い、再びトリガーを引く。
トリガーを引く音さえ聞き取れないほどのクイックドロウショットは、性格に狙いを打ち抜いた。
ガゴリッ、と鈍い音がすると同時に放物線を描いて飛来してきていた矢の一本が軌道をずらし、周囲の矢を巻き込み落下していくのが見えた。
「まだ時間は必要?!」
「ジャンは絶対間に合わせる」
「間に合うの本当に!?」
私の問いかけにジェは相方の腕を信じろと答える。
カタリナも流石に目前に迫る大量の矢を前に、矢から覗かせた顔を引っ込ませて問いかけていた。
「いけるネ! マジック、黄金錬金術!」
ジャンは巨大な矢に手を当て、奇跡の力を行使した。
すると、目の前の大地に突き刺さった矢が黄金の光を放つと、全体を黄金へと姿を変えていた。
「耳を塞ぐ!」
ジャンの奇跡が完了したと同時に、私よりも先にジェがタイミングよく言葉をつなぐ。
私も、その指示に従い耳を塞いでいた。
雷鳴が延々と続いてもこんな音はならないだろう、飛来する矢の轟音はしばらく続いた。
大地が幾度となく裂ける音は、大地震の比では無かった。
流石に巨大な黄金矢を貫通してくる矢はなかったものの、周囲は脱出不能と思えるほど矢で覆いつくされていた。
これ、他の皆も突破出来るのかしら……。
そんな事を思いつつ、どうやってこの巨大な矢の監獄から抜け出すか頭を悩ますのだった。