019.ミスティックナイト(5)
「私ばかし質問にあうのもいただけないね。君たちの事も教えてくれても良いんじゃないかな?」
そう言われると、確かに俺は一方的に問いただしている事に気が付く。
いや、こういうタイプのゲーム世界といえばNPCに話しかけたり、怪しい場所を探ってヒントを拾い集めていく醍醐味があるという先入観からか探りをしつこく入れすぎたようだ。
仮にNPCだとしても、このRLの世界観で存在する住民に失礼なことをしたと思い、至極真面目にその思いに応えた。
「俺はイイ、コイツは相棒の桜だ。二層を味見しようと一層から降りてきたところなんだが、見ての通り。ほとんどの装備は紛失して戸惑ってたところさ」
「ふぅん。それで、君たちは何故姫の元へ向かう気になったんだい?」
それがこのヘルダンジョンのクリア目標だからじゃないか? と答えようと思ったが、それよりも先に桜が声を上げていた。
「運動がしたくて、私たちはここに来たの」
おいおい、勝手に俺まで運動目的にしてくれるな。
「運動目的って、随分と思い切ってるねあんた達……まぁいいや、話を戻すけど時間対策、知らないのかしら? 今のまま外へ戻ると精神への負荷が高いわよ?」
「「負荷?」」
「ええ、実際の時間とここで流れる時間とのギャップに、体と心が引き離されるの。モンスターを狩っていればそのうち時間対策付きのアイテムをみつけれるから、気長に頑張りなさい」
なるほど。このダンジョンの性質をここで説明するためのイベントだな、と俺はやっと理解する。
「助言ありがとう、ラーシャ」
「後、姫様を助け出してくれたら是非とも村に来てくれ」
「村?」
「ええ、姫様が育った村よ」
んん、姫様というわりに村育ち? どういう事だ。
「姫様は時間の力を手に入れたがゆえに、重封されたからね」
「重封?」
桜が俺が気になった単語を拾って問い返した。
「ええ。知らないの? 私たち人間は望めば好きな力を得る事が出来るじゃない? その代償に24時間の制約の後に十の封印により大地の底へ眠りにつくの。もう何十年も前に何万以上もの王子や姫が眠りについちゃったしね、若い子は知らないか」
ええ、何も知りませんそんな設定。
「ちなみに、救い出された王子や姫様はその救世主を主と認めて、一生を尽くす力が働くのよ。だからね」
一呼吸あけると、ラーシャは悲し気に言い放つ。
「私たちの村の時が動き出すようにしてもらうんだ……あの子が守った代償は想像もしない時間の無い日々によって呪いだったことに気が付いたから」
んん、何かきなくさくなってきたような?
「他にも、寒い場所では火の力を得た王子の話があったり。そこでは、今もなお二つ目の太陽が照らす大地が全てを燃やし続けているとか。貧しい家に生まれた女の子がお金を欲した話があったり。そこは確か、全てが金になり家から出れなくなったり、食料や水までもが金に変わって絶命したとか……そんな、呪いの力があの日、夢を持った人々が各々の欲求を満たそうと叶えた呪い」
「今でも、望めば手に入る力を誰も望まない。皆、呪いを解いてもらいたくて必死なの。だからどこから来たかわからないあなた達も、どうか姫様を、私たちを救う力を貸してください」
ここまでがイベント、だよな? にしても、物騒な設定を組み込んでいるな。
運営が望む力をNPCに与え、そのNPCが元でダンジョンが生成されていると。
そのダンジョンを攻略して、NPCを救い出すってそんなストーリーか。
俺、理解力イイ!
「うんっ、うんっ! うち頑張るで!」
ああ、イベントにすっかり毒された桜さん。テンションマックスじゃないか。
……だが、こんなノリも嫌いじゃない。
「ああ、情報ありがとうな」
ご武運を、とそれだけ言い残すと再び闇の中に向かって消えてゆくラーシャさん。
もしかすると、時間対策をしていれば仲間になってくれたりしたイベントじゃないかと少々別れを惜しんだものの、俄然やる気を出す俺達。
会話イベントで数十分は使っただろうと、時計を確認するがリアル時間はまだ10秒も経過していなかった。