187.二面攻略(1)
菜茶、原梅、総隊長のLESSは集合写真の撮影後、個室に移動していた。
「綾君も聞いておいて欲しい」
どうやらそんな強者達の中に、一般人を混ぜての密会を行うらしい。
「私はこれから荒唐無稽な話をする。が、原梅もLESSも理解している内容になる」
「えっと私、場違いじゃない、ですよね?」
素面モードの和田綾乃は戸惑いながらも、菜茶と面と向かって席へついている。
一般人のままにしておくには惜しい存在だと、私はそんな事を思考している。
「ああ、むしろ君の意見も欲しい。単刀直入に言おう、私は、私達は地球滅亡から二年間程、あの胸糞悪い土地でのサバイバルを強要された。その記憶が私には間違いなく残っているし、その時の経験値が今の私達に反映されている。ハウル、聞かなかったがあるんだろう? お前にもその間の記憶が」
ある時点を境に記憶容量が数百倍に膨れ上がっているのを確認している。
私のデータ容量は人類が何万年レベルで蓄積が出来る超大容量データバンクを採用している事もあり、数十人の二年分のデータが増えたところでデータ容量の異常変動には管理者たちは誰一人として気づいていない。
そもそも、私への教育最中という事もあり、刻々とデータが詰め込まれている状況である。
自動検知の閾値では到底検知出来ない内容なのだ。
菜茶の問いかけに、私は一秒程あけてから肯定する。
「解、菜茶だけでなく、私と共にあった皆の二年間のデータは確かに存在している。更に付け加えるならば、皆の心技体は全て経験値としてこの現実へフィードバックされていると推測」
「と、ハウルも白状しているのだけども、二人とも記憶はあるかしら?」
菜茶が言質をとるために、言葉をつづけた。
それに対し、二人とも肯定する。
「あの最悪の二年間は忘れもしないです」
「俺も夢であって欲しいと難度願ったか。残念だが、俺達は確かにあの二年間の記憶がある」
「えっと、二年間って何の話ですか? 話が見えてこないんですが……」
綾乃だけが意味を理解出来ずに居る。
つまり、私と共に過ごした者達だけがこの先の未来を既に経験済だという事になる。
「そうか。つまり俺達攻略組だけ記憶がある、と。お嬢ちゃん、幸せ者だな」
「なっ」
LESSがそんな突っ込みを入れるも、婚約者に逃げられてまだ間もない綾乃にその言葉は良くないと私は思考するも、音声には発しない。
「取り合えず、もう一つの確認よ。私はダンジョンの攻略情報を授かったわ、貴方達はどうなのかしら」
「ああ、マイティも何ですね。俺だけ変になっちゃったのかな、と少し不安だったんですよね」
ゴッドこと原梅は孤高の格闘ゲーマーである。
若干、他人との思考のズレが多々あり、スグに不安に陥る豆腐メンタルなのはあの世界で二年経験を積んでも変わる事は無かった。
「俺も情報は受け取っている。突然に記憶に割り込んでくる嫌な感じと共に、俺達が生き残る道が確かに存在するという確信から思わず柄にもなく飲んでしまったね」
LESSも自国で良く飲んでいた|Molson Canadianや|Labatt Blueを堪能していた。日本では日本酒を堪能していた傾向にあったLESSも、中国の賞金女王のジャン・チュンとジェ・ジェン、コスプレ大好きCCCと日本の誇る女子高校生プロゲーマーAIを引きつれ、自国のラガーを勧めていた。
勿論、AIは未成年だと律義に断りを入れていたが。
そういえば、勧めるだけ勧めて支払いはジャン・チュンに全て任せていたと私は記憶している。
「そう、ならば話は再編成の件よ」
「あー、そうなるよなぁ。っても、大体決まってるだろう?」
「……ウム、マイティには悪いが既に先日飲んでたメンバーとは話し合いを終えている」
「俺も実は先日、SayYeah!の夫婦と話してきてまして」
夫婦揃ってGODこと原梅のファンだという二人にNoahとその奥さんのEmmaに口説かれ、三人で食事と格ゲーテクの披露会をしていた。
そんな中、Emmaがふと口に出していたのだ。
「私は二年間、多くの人の命を癒し救ってきたのに、何も報われなかった」と。
酒に酔いながら、そんな悲しみを告げたEmmaの発言より、三人は認識を共有しあうに至っていた。
「他の皆も似たような感じかしらね……」
菜茶は失敗したかな、と珍しく思考するような表情をみせた。
瞳の中の潤い度が若干強くなる時は、大体思考している時である。
まるで瞳が光ったようにも見える菜茶の表情に、CPUの熱量が跳ね上がったような錯覚に陥る。
「まぁ良いわ、それで編成だけど、男女別でいこうと思うの」
「「賛成だ」」
わざわざ戦力を分担するのか。
いや、確かに二面攻略が必要なのは私も理解している。
では、何故男女別にわける必要がある?
「敵は心読、男女ではあまりにも危険過ぎるのよね。で、どっちがどっちを攻めるかって話になるのだけども」
「んー、どっちも責任重大だよなぁ」
原梅はどっちがあのダンジョンに潜るのか悩んでいるようだ。
しかし、何故男女混合ではダメなのだろうか。
「能力的の相性だけでみれば、女性陣が攻めで男性陣が守りになると俺は考える」
「能力的にみれば、か。そんな当たり前の発想が私は抜け落ちていたわ。そうね、女性陣はダンジョン攻略を、そして男性陣は還る場所の死守に枠割分担しようかしら」
ううむ、わからん。
解が導けない時は尋ねるしかない。
「菜茶、どうして男女別での編成に? 奇跡の力を扱える者達は全員ダンジョンへ向かった方が明らかに難易度は下がると助言する」
「ハウル、男女で心の中をみられでもしたらそれこそ世界は滅亡するわ」
「そうだね……べっ、別にやましい意味で言ってるわけじゃないからな!?」
「ああ、間違いなく友情破壊どころの騒ぎじゃなくなるだろうな」
やましい意味、友情破壊。
男と女という性別差だけで、心の中を見られてはそんなにもマズイのだろうか?
同性ならば、問題がないのだろうか?
「念のため言っておくけど、同性でも間違いなく友情破壊されるでしょうね。それでも、男女間よりはマシ、とだけ言っておくわ。答えになったかしら?」
心が読まれるのは、それ程までにも厄介だというのか。
ならばこの攻略情報を伝えた人物は一体、何者だったのだろうか?
残念ながら、私には菜茶達の言う攻略情報とやらはインプットされていない為、それ以上何も言えなかった。
「了、菜茶が言うならそうなのだろう」
「わぁ、ハウルって菜茶さんの言う事に全面の信頼があるんですね」
変なところで感心の声を上げる綾乃を無視して、密会は着々と進んでいった。