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185.茶をしばく(4)

 遠巻きに包丁男ターゲットを確認すると、先陣を切って出たのは乙女だった。

 先ほどまでの声色と違い、しっかりと街中にも関わらず通る声を発して見せた。


「ねぇ君っ、危ないからソレを捨てて大人しくしなよっ!」


 包丁男ターゲットとの距離は僅か五メートルというとこまで近づいた乙女は、真っすぐに包丁男ターゲットへと視線を固定していた。


「ガァー! どうせ皆ァ゛死んだろうぁああああ!? 俺が殺したってもぉ何も問題ないだろおおおおおおおおおお? あ゛あ゛ん、ああああ゛ァアアアア゛、アアァ!」


 狂っている。

 人間とは壊れると自分を中心に考え、自分は無関係だと思考を手放す生き物というのはどこの世界も同じか。少し考えれば、包丁を持っただけで優位に立ったと思う穴だらけな思考がそもそも馬鹿げているというのに。


 何故、自分が獲物ターゲットになっている事にも気が付かず、一方的に自由を手に入れたと考えるのだろうか。ふふ、私には理解が出来ないが菜茶達と居ればきっといつか答えが見つかるだろう。


「アアアアアアアアアア! ニゲ、アアアアアンナァアアアアアアアアア」


 乙女に襲い掛かろうと駆け出すも、一切距離が五メートルから詰められることが無くイライラしてみせる包丁男。既に包丁を振り回し続けていた事もあり疲れてきているのだろう、振り回す頻度が落ちてきている。


「良い動きね」


 菜茶は更に少し離れた場所から乙女の動きに太鼓判を押していた。


 体力が落ちてきているところで、咲が乙女と入れ替わるように前に出る。


「あんたねぇ、女の子に襲い掛かるとかサイッテェよね!」

「クソガキがあああああ、アアアアアアアアアアア」


 咲が前に出た事で、標的が咲へと切り替わった。

 男がジリ、と近づくと先ほどまでとは違い距離がちゃんと詰まり、ニヤリと歪んだ笑顔をみせていた。


「ヒッヒヒヒヒヒ」


 やっと包丁男は願望が叶えられると包丁を振り回すのをやめ、確実に咲の体を切り裂くために距離を詰めようと動き出す。


「素人がそんな物振り回しちゃ、だめだよっ!」

「ッ!?」


 それは同時だった。

 包丁男に向かい咲も距離を詰めようと駆け出した。

 男も距離感が一気に詰まり、想像イメージと異なる間合いに振りかぶる動作が遅れる。


「チェスト!」


 捻りながら打ち出された拳に、胴を穿うがたれた包丁男は体を宙に浮かす。

 二打目の拳が宙に浮いた状態の包丁男をとらえ、抵抗する事も出来ず後方へと吹き飛ばされる。


「ガッ、ア゛ッ」


 唾をまき散らしながら吹き飛んだ包丁男は、落とした包丁を取りに地べたをう。


「往生際が悪いわね、バンッ」


 そんな包丁男を遠巻きに見ていた菜茶は指を銃の形にしてみせると、人差し指で包丁男ターゲットを捉えるとバンッ、という声と共にまるで本物の銃を撃った反動を得たかのように指先は軽く上へと上がっていた。


「ア゛ッ……」


 包丁男はそんな短い声を上げ、そのまま意識を手放していた。


「ふぅ、お見事」

「どうも……」


 私の通信機能を通して、駅の屋上から姿を見せた儚夢アネモネが頭を下げて一礼してみせる。


 事件が発生した直後から、儚夢アネモネはロングライフルを取り寄せ狙撃ポイントから包丁男を狙うべく構えていた。

 駅の改札付近にいたため、狙撃ポイントまで誘導する必要があった訳だが、その役を二人がしてみせた。


 流石同じチームメンバーといったところか、連携は完璧。

 現実世界にも関わらずあんなことが出来る事を褒めるべきか。


 ゴム弾といえど、試射も無く正確に包丁男の意識を刈り取った儚夢アネモネさんのスナイプ技術は私も参考にしよう。


「菜茶、ミッションコンプリートだ」

「そうね、後は警察にでも任せて帰りましょうか」

「いやぁ、凄いわね彼女たち」


 カタリナもそんな彼女たちの動きに称賛を送るのであった。

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