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184.茶をしばく(3)

 店内を覗くも、客が一人も見当たらない。

 見た目通りの情報で判断すると、さびれている、としか言いようが無かった。

 そんな店内に臆する事も無く扉に手をかけると、ガララと入店してしまった。今時自動ドアですらないこの店構えに動じない菜茶は、流石といったところか。


「マスター、やってる?」

「ん、嬢ちゃんか。見ての通りだ」


 見ての通り。カウンター席の奥にある座敷にも人っ子一人見当たらないのだが、これはまだ店は始まって無いという判断をしろということだろうか。


「ふふ、貸し切り予約したつもりは無かったのだけどね?」

「カッ、早く好きな席座んな」


 ねじり鉢巻きを締めなおしたマスターと呼ばれる男性は、手を動かし始めると何も乗ってない寿司を運ぶレーンにいくつかネタ皿を次々に追加していっていた。


「わぉ、回転してるよ! Look it(みろよ)、タクト、凄いな! あれに車乗せたら加速しそうだよな!」

「はしゃぐなカタリナ、恥ずかしいだろう? あれは車の加速装置では無く物資を運ぶための重要なレーン技術で」

「はいはーい、二人とも席につきましょうねー」


 咲が小さな体でカタリナとタクトの背を押し座らせていた。


「咲ちゃん、凄い……」


 あんな大きな相手に、物怖ものおじしないで凄い、と乙女は声に漏らしながら後に続いた。


「直接注文してもいいわよ、ね?」

「ああ、好きなだけ食べていきな。どうせ客なんか来やしねぇよ」


 一体いつ買ったのか聞きたくなる程古い、ブラウン管テレビが衛星チューナーを通してニュース番組を流し続けている。その内容は。


『速報です、専門家の予想では一か月後に謎の惑星が地球に急接近するとの事です。専門家の……』


 どうやら240リミットの脅威が『接近している』と、人類もどうやら予想する事が出来たようだ。

 が、呑み込まれるとまで考えていない、また予想時間が全くもって的外れであるというのが残念過ぎたが。


 それでも、皆ニュースで報道される第一人者と呼ばれる専門家の声を軸に物事を考え、そして各々が災害対策と称して行動に出る者が現れていた。


 緊急用の水や食料を買う者、予想される被害地域から少しでも離れようと移動を始める者。

 バカバカしいと笑う者、チャンスとばかしに詐欺を行う者。

 他人事とばかりに仕事ルーチンをこなす者。


 三者三様さんしゃさんよう、だがその全ては第一人者だいいちにんしゃの思考を元にスタートしている。


 こんなにも情報を集める事が出来る世界で、こんなにも自分で考える事が出来る世界で、何故か一番偉い人の思考を、思念を切り離してIF(もし)を考える事が出来なくなった人類。


 本当に真剣に生きようとしている者が少なすぎるんじゃないかと、私はそう思う。


 その点、菜茶は本当に素晴らしい。

 自分で考え、自分に足りないものは人を頼り、私を頼り、しっかりと行動をしている。

 それも、自分で出来るジャンルで行動するのも素晴らしい。


 そんな思考を逡巡しゅんじゅんしていると、レーンに流れているネタをカタリナとタクトはせっせと取り、菜茶、乙女、咲の三人は大トロ、中トロをそれぞれが注文していた。


「これが本当に60円っ!?」

「悪魔的うまみ成分っ」


 口を押え目を開く乙女に、食レポのように語って見せる咲。


「Oh、口の中で溶けたよ! まるで溶けるステーキね、これは」

「大トロも中トロも美味脂うまみあぶらが凄いからね、まず魚の脂ってのはな」


 寿司が気に入ったのか、次々に色んなネタを食べていくカタリナにその都度説明を挟むタクト。

 菜茶はお茶を飲みながら、心を落ち着かせているようだ。


 私達が一度経験した敗北の味。

 誰も口に出さないが、それぞれの記憶の中に地球崩壊後のそれぞれの冒険があったのだろう。

 その中で、次は無い事を各自は知っている。


 故に、今のこの最後の休息に野暮な事は言わないでおこう。


 腹八分、といったところで、その速報は流れた。


『緊急速報です。蒲田駅正面で男が包丁を振り回して暴れているとの情報が入りました。緊急速報です……』

『あー、地球に謎の惑星が近づき少なくとも大災害ハザード級の被害が出る事が予想はされますが、自暴自棄にはならないようにお願いします。いや、夏場は変なのが……』


 緊急速報を読み上げるアナウンサーに、茶々を入れるように助言する第一人者は苦言とばかしに変なのが沸く、と生放送で発言して、直後CMに画面は切り替わった。


「近い、ね」


 ボソリ、と乙女が言うと、菜茶は湯呑を置きマスターに支払いを済ませる。


「地球を救う前に、まずは私たちの岐路の確保といきますか。ハウル!」

『菜茶、アレを排除するのだな?』


 私がそう確認すると、勿論と菜茶は頷いてくれた。

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