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181.ロストアンドファインド(4)

 幼女姿のサクラと再会してから三日が経過していた。

 宿屋ホテルの一室で手厚く介抱かいほうしてもらったおかげで、今では自力で起き上がる事が出来る程に回復していた。


 ただ。


「なぁ、何か視線感じね?」


 七階の部屋にも関わらず、外からの視線を感じてしまう。

 パッと見た感じ、近場に同じくらい高い建物は見当たらないのだが。


「んー、気のせいじゃない? それよりもほら、クッキー買って来たよ!」

「あ、ああ」


 サクラは包装用紙をビリビリっと破くと、箱に入ったハート形のクッキーを取りだして見せた。

 んー、個人的には包装用紙取っとく派なんだけどなぁ、など思考しながらもサクラの行動に思わずこめかみを押さえたくなる。


「んー、ふぁヴぇて」


 ハムッ、とクッキーを口に咥えて体をズズィッと寄せてくる。

 そして、顔と顔とが触れそうな距離まで近づくと、目を瞑って見せるサクラさん。


「えーと、あー、うーん、イタダキマス」


 くちびるかすかに触れるが、それ以上接触させまいとそのままクッキーを口の中に引き込んだ。

 シットリと片側かたがわ湿しめったクッキーを頬張りつつ、ここ数日のサクラの言動を思い返す。


 過剰な程までのスキンシップに、愛欲あいよくおもむくままにイチャイチャイベントをくわだてるのである。


 確かに、確かにだ。

 俺はサクラと寝た記憶はある。

 でも二百年という年月の中、結婚した相手は唯一人であって、その人を裏切ろうとは思えないのである。

 それがこの何処にあるのかもわからない宇宙の果てだったとしても。


 だから俺はこの部屋の中に入るや否や、衣服を脱ぎ迫ってきたサクラに正直に話をした。


「俺はもう既婚者で、アイツの想いを裏切りたくはない」


 一瞬、悲し気な表情をみせたサクラだが、俺の想いが伝わらなかったのだろうか。


「へへ、良かった」


 と。


 どうやって俺を見つけ出して助けてくれたのかは未だ確認できていないけど、サクラの行動からほぼほぼ推測はつく。


 相棒として? リアルで会ったから? 一晩を共に過ごしたから?


 そう、サクラと過ごした時間は誰よりも短かったにもかかわらず、俺への愛情を動力源に行動に至ったと考えるしか、無いだろう。

 そしてそんな相手へ、俺は悪いと思いつつしっかりと自分の想いを伝えたのに、『良かった』の一言だけで今も尚、過激なスキンシップを交えつつ介抱を続けてくれた。


 共にプレイした時間は僅か、共に過ごした時間も僅か。


 サクラの時間軸では、あの一瞬の一時から僅かしか時間が経っていないからこそ、俺の事を思い続けてくれているのだろう。


 助けてくれたのには本当に感謝しているし、相棒サクラが本当に俺の事を思ってくれている事も嬉しく思う。

 でも、この240リミットの脅威から解放されればサクラは地球へ還るだろう。

 俺の居場所はもう、この宇宙の果てにしか無いのだから。


 クッキーを咀嚼そしゃくし呑み込むと、甘い口の中とは裏腹に苦い言葉しか出てこなかった。


「俺、地球に戻る術が無いんだ。だからサクラはサクラで幸せになって欲しい」

「もぅ……」


 ぷぅ、と頬をふくらませるだけでサクラは部屋から出て行ってしまう。

 そしてシャワールームから水浴びする音が微かに聞こえ出す。


 サクラの瞳はハート型になったままその色強い眼差しが消える事は一切無かった。


「人類滅亡の勝敗が決まるダンジョン攻略中だってのに、俺ってば無力だぜ。もぅ」


 思わず俺までもぅ、となげいてしまう。

 もう俺に出来る事は何も無いけど、後は任せましたよ師匠。


 バスタオルも巻かず姿を現したサクラに、まだ前回から数時間しか経ってませんけど! と突っ込みを入れながらも逃げ出すことも出来ず、ただただマルムへと心の中で謝罪しつつ二人だけの時間は続いた。


 そんなある意味濃密な時間を過ごしている一方、攻略組はやっと攻略を開始(うごきだ)した。

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