180.ロストアンドファインド(3)
やけに眠りにくい場所だな、と徐々に意識が覚醒するにつれその場から移動しようと体を動かす。
でも、だらんとさがった両腕は動かず、プランプランと揺れる両足が僅かに揺らせる程度でどうにもこの寝にくい場所から移動する事は叶わないようだった。
顔は芝生の上だろうか? 大地の匂いというよりかは、やさしいハーブの匂いが鼻をくすぐる。顔面から大地に顔を伏せたままにするわけにもいかず、必死の思いで首を横に動かすと茶色い何かが視界に映った。
「あっ、やべぇ」
思わず声に出してしまう。
涎がその茶色い何かにツゥーと糸を引いている事に気が付く。
そして、それは。
「起きた? もうちょっとで町につくから、もう少し我慢しててね」
「……ん」
徐々に、ハッキリと意識が戻ってくる。
確か俺は無限にも思える広大な大地、240リミットの脅威の地表に捨てられた後装備品のおかげで息を吹き貸すも、瀕死状態だったはずで。
そこに『偶然』通りかかったであろう、誰かに介抱されて……。
ふと、気づいてしまう。
この茶色い何かは、女性の髪の毛であると。
両腕は女性の肩に支えられ、体は華奢な小さな背中に背負われ、両足は俺を落とさないようにしっかりと両手でつかんでいてくれた。
そして、この声は俺の古い記憶を呼び覚ます。
「なぁ、もしかして、だけどさ……」
「なぁに?」
何故か震え声で尋ねる俺に対して、少し喜びの感情が混ざったような受け答えをする女性。
いや、でも、ありえるの、か?
「間違っていたら、本当に失礼かもしれないんだけどさ」
「うん」
俺は思い切って、記憶の彼方にしか残らないあの娘の名を呼んでみる。
「モモ、か?」
瞬間。
俺の体は重力を一身に受け止め大地に投げ捨てられた。
「馬鹿ァッ! 失礼過ぎるよっ! せっかく、折角会えたのにっ!」
馬乗りになるように両肩を押さえつけられ、未だ自由に身動きできない四肢が完全にホールドされた。
そして目の前に居る少女の姿を見て、俺は言う。
「冗談、くらいわかってくれよ『相棒』」
こんなにも満身創痍な状態なのに、何故か自然と笑みがこぼれていた。
「そんな冗談、大阪人だからって全然笑えないよっ。もぅ、やっと見つけたのに」
「何だよ、めちゃくちゃ可愛い顔してさ」
涙流しながらそんな笑みを見せられたら、冗談言えないじゃんか。
「サクラ、久しぶり」
「うん、久しぶりイイ」
「とりあえずさ、めちゃくちゃ痛いから降りてくれね?」
「だめ、だめだよ、ちょっとギュッとさせて」
幼女姿のサクラに成すがままにされ、俺は痛みをしばらく我慢するのであった。