179.ロストアンドファインド(2)
喉がイガイガする、体中が悲鳴をあげ指先を動かす事すら断念したい思いだ。
意識が徐々に回復するなか、痛みに耐えながら指を必死に動かすも何も目の前には現れなかった。
『ん、ぐぅ。森の中、か……』
独り言すら出来ぬほど衰弱しているも、視力も徐々に回復を始め状況の把握に至る。
確か俺は、敵に敗北して意識を手放した。
ピンアウトによるメニューの呼び出しが出来ない今、アイテムの取り出しは絶望的。
足首に填めていた予備アイテム、復活のアンクレットの感触が無い事からも、俺は間違いなく殺されたのだろう。
その上で見知らぬ森の中という事は、俺は消滅時間からこの大地へと捨てられたのだろう。かつて、俺が敵を排除したさい放り捨てたように。
『俺の残り体力はいくつだ? 魔力はあるのか? 詠唱を……』
「…………」
声が出ず、ヒュゥ、と小さな空気音が喉から溢れ出るのみ。
それでも、詠唱は成功したようで雨水が空から自分を中心に数メートル四方にもたらされた。
『んぐ、、、けほっ』
上手くむせる事すら出来ず、苦しみながらも口を開き乾いた体に水分をいきわたらせる。
マップ情報も見れず、アイテムも皆無。
徐々に体に力が入るようになるも、起き上がるだけで限界に近いと感じるあたり、本当に死が近づいているのだと実感する。
ぐぅ、とお腹が鳴り空腹という感覚を思い出し思わず苦笑する。
「ハハ……脆弱過ぎるぜ」
無力。
だが、俺の出来る事は全てやったと言って良いだろう。
あぁ、俺は疲れた。
柔らかな布団に潜り込み、そのまま眠りにつきたい。
あぁ、柔らかなこの感触が……。
俺が意識を再び手放そうとしたその時、耳元へ優しい声が囁かれる。
「やっと見つけたよ。大変だった、よね。今はゆっくりお休み」
ひどく懐かしい声色に、俺は安心して意識を手放していった。