178.ロストアンドファインド(1)
「戻って……きた……」
第千弐百零零号艦大陸、消滅時間の操縦室。
王城最上層。
簡単にだが、記憶の整理をおこなおう。
人類滅亡の回避策として、初めて時間を巻き戻したのは記憶に新しい。
人類滅亡、いいや、宇宙崩壊の直接的な原因となった240リミットの脅威をさぐるべく、師匠とコンタクトを取り祈願者の元まで辿り着くことが出来た。
彼女は心読の力に心が病み、人類への価値を見出せなくなっていた。
結果、全て『死んじゃえば良いのに』という結論に至っていた。
そんな彼女が居るダンジョンの位置は完全に把握した。
そんな彼女が居るダンジョンの攻略は完全に把握した。
世界を救うべく道筋は用意した。
俺の精神は時間を巻き戻すことにもう耐えるだけの耐久力が残っていない。
正確には、全てを絞り切れば世界の時を操作できる。
だが、それだけではダメだった。
皆へ攻略の道しるべを託さなければイケない。
だから俺は祈願した。
そして今、ここに戻ってきた。
場面は師匠とコンタクトをとりあった後、俺が単独で行動しようとした場面。
以前ならば、俺はここから皆の力を借りダンジョンを見つけ出し攻略していく場面。
だが今回は違う。
皆、これから先の現実を全て体験して知っている。
座標は伝えた、後は攻略さえしてくれれば全ては解決する。
そう、全ては解決するはずだった。
「ヒッヒッ、やっと会えたよぉ、会いたかったよぉ、ヒヒヒヒヒッ」
最初に巻き戻してから、この宇宙船のコントロールを得る為に王城を急ピッチで制圧した。
そしてここ、操縦室を外との時間を隔離し完全制圧していたがそれが今、解ける。
「ちっ」
慣れ切った行動をするも、ウインドが表示されない。
勿論、道具の取り出しは不可。
「ヒーヒッヒッ、アァン? そっちが何もしてこないならヤらせてもらうぜぇ?」
紫色のアーマーのみを着用した、インナーも着ていない敵。
王城に蔓延る戦士の一人、俺に時間停止をかけた張本人。
何か無いか!? 何か、武器になる物は無いのか!?
周囲を見渡すも、武器になるような物は何一つ無い。
今の俺にはピンアウトが使えない、つまるところ精神力が、ローグライフの没入で得たこの借りものの体に限界が来ている事になる。
いわゆる、無能力。無補正。俺は時間を失い、超人的な力も失っていた。
「ガハッ」
圧倒的な膂力差による一撃で、俺は意識を簡単に手放してしまった。
最後に聞こえた歓喜の悲鳴は、やけに耳に残った。