176.ラストダンジョン(22)
『さっきから水ばっかで、何か注文してくんないかねぇ』
ふむ、やはり胸中での呟きが方向性をもった瞬間丸聞こえである。
喫茶店でメニューとにらめっこしながら、三杯目の水をおかわりしたところである。
そろそろ店員に何か胸中での呟きをぶつけられると思っていたが、まぁまぁ予想通りの反応が返ってきた。
『あー、今日は疲れてるのよね。タカシも何だって今日仕事あるってのに寝かせてくれないのかなぁ。もぅ、早く今夜も……』
そしてもう一つわかった事がある。
一度胸中の呟きを聞き入れると、その後の思考も駄々洩れてくるというオマケがついてくるという点。
丁度、続きが気になったところで心の声が聞こえなくなったのは、一定の距離をあけるとこのオマケは効果を失うという点だ。
「すみませーん、この蕩けるショコラケーキ一つと、紅茶下さい」
「はいはーい」
『やっと注文したよこの人。旅人さん、だよねぇこんな奇抜な格好してるんだし? お金、持ってるのかしら』
そして効果を失った心読は再び方向性を持つと接続されるようで。
『まっ、どうでもいっか。ちゃちゃっと用意しちゃおっ……』
さて、とりあえずこの第七階層は一方的に他人の思考を流し込まされるというギミックらしいけど、同時にこのダンジョンの本性が見えてきた。
そして、ここからはただの俺の妄想。
このダンジョンの本質と、その祈願者の事を読み解いていく。