174.ラストダンジョン(20)
第七階層。
体中に染み渡る久方ぶりの日の光に、思わず伸びをしたくなる程心地よい風。
果てなく続く晴天の霹靂に、オゾンに守られた地表に思わず身を預けどこまでも続く青空を俺は見上げていた。
「久しぶり、の地表だな」
「んー、空って懐かしいな。こんなにも青かったんだな」
俺の呟きを拾ったギードも、同じく大地に寝そべって青空を見つめているようだった。
まぁ、俺と違ってギードは永遠にも似たダンジョンという名の監獄に閉じ込められていたのだから、空を懐かしんではいるが既に記憶の彼方の産物といったところなのだろう。
俺程感慨深げな声のトーンでは無く、ただただ『あぁ、あったなぁそんなもの』くらいの感想なのだろう。
「何だか天井が無いって、怖いな。あの青空って落ちてこないよな?」
とか、まるで子供のような問いかけに思わず吹き出してしまう。
「空は落ちてこねぇよ。それよりもさ、ここって地上だと思うか?」
「んー、正直わっかんねぇなぁ。でも十中八九ダンジョンだろうな」
「だよなぁ、うっし。そろそろ起き上がりますか」
腹筋に力を入れ体を起こすと、正面に見える街並みを直視する。
足首あたりまで生え茂った草原地帯の向こう側には、人の手が加わった街道も見える。
その街道に沿って視線を滑らせていくとポツリポツリと民家が立ち並び、やがて人口の建物の集合体、街が姿を現す。
大地があり、道があり、街がある。
空があり、風があり、眩いばかりの光がある。
ここは本当に第七階層なのだろうか? 謝った道を進んで地表に戻されたのではないだろうか。
そんな事を考えながらも、とりあえず視界に入る街へと向かう事にする。
「何が襲ってくるかわからないから、油断はするなよ?」
「ハハッ、私に油断なんかないさ。常に全力で楽しみたいだろう?」
「……そういう奴だったな」
本当、戦闘行為が大好きなのは良いけども面倒事はよしてくれよ?
「あっ、今馬鹿にしたろ? よーし良いだろう、私が戦闘以外にも出来るってとこ、みせてやろうじゃないか! あそこに行くんだろう? 競争だ、先に到着した方が何でも命令できる権利な!」
「なっ、バカッ! フライングだろう!」
条件を言うなり、いきなり走りだすギード。
くそっ、何でも命令できる権利だと? あいつ、俺に何をさせるつもりだっ!?
「マジック! 超加速」
手加減は一切無しだ。
良いだろう。
その勝負、圧倒的な走りで完膚なきまでな差をつけ勝利してみせよう。
ダンッ、と最初の加速で大地が大きく抉れたのがわかる。
たった一蹴りでギードの横を通り過ぎた俺は大人げなく街まであっという間に到着してみせるのだった。
「ひー……きょー……うー……だー…………ぞぉ……」
ギードの叫び声も虚しく、俺にその全てを聞き取らせるに至らなかった。