173.ラストダンジョン(19)
ここ第六階層は本当に第一階層では無いかと疑いたくなる程の広さだった。
その上で敵が心読を使ってくるので終始緊張したままの攻略となった。
それでも、この羊は単独でこの階層で生きているだけの事はあった。
何せ、ポップする単体の敵相手にはその鋭い角一つで相手を屠り、危険があると踏んだら即コースを迂回する判断力と良い、めちゃくちゃ頼れる奴だった。
「そんなに、褒めるなよ。照れるじゃないか」
俺やギードは読心は使えないため、羊は気を使って声を出して気持ちのままに喋ってくれるようになっていた。
流石に一週間も一緒に居れば仲良くなるもので、交代制で睡眠もとれる程に安定して攻略を進める事が出来ていた。
それに、発声も上手くなったようで声が大分聞きやすくなったのもグッドだ。
「なぁにんげん、なんならずっとここにいても、いいんだぞ」
別れが近づく度に、羊はこんな台詞も吐くようになっていた。
どうも、俺達の思考は単純かつ裏切らない絆力がどうとかで、心地いいのだとか。
「ごめんな、俺には目的があるし、ギードの居場所もここじゃないんだ」
「……わかっている、いってみただけだ」
二日目あたりでこの階層の広さと、次の階層へ降りる扉がわずかしかないのではないか? という予想より試しにドロップしたモノクルに付与されていた宇宙眼見を使用してダンジョンの壁や障害物を一気に透視してゴールの方角を割り出していた。
つまり、一瞬で広範囲オートマッピングが完了していたため、ゴールまで後数分で辿り着くところまで来ている事を理解していた。
バランスが崩壊するようなアイテムオプションを使用してもこの難度なのだから、使えるものは何でも使って完全攻略しなければいけない。
卑怯だとか、チートだとかそんな言葉に一切意味の無い難易度。
どんな手を使ってでも攻略しなければ、人類に未来は無いのだから。
「にんげん、またあえるか?」
「ああ、必ず会えるよ。だから、次に会った人間とも仲良くしてくれよな?」
「……しょうがない、なかよくしてやろう」
前足の蹄を上げた名も無き羊と俺は熱い握手を交わすと、ついに訪れた扉の前。
「それじゃ、またな」
「ああ、またなにんげん」
ギードは声に出していないが、寂しそうな表情から心の中で別れの挨拶をしているのだろう。
手を軽くあげ、挨拶をするギードを横目に俺も手を振って感謝の言葉を投げかける。
「ありがとうな!」
こうして第六階層での長い旅は幕を閉じた。
後は七、八、九階層を突破し、全ての現況である240リミットの願いを叶えて見せた祈願者を救うだけだ。
あぁ、後たったの四階層で全ては元に戻る。