171.ラストダンジョン(17)
ドンッ、と鈍い痛みを感じた時には俺の体力が1削れていた。
防御力が大幅にモブの火力を上回っている為、最低保証の1ダメージが適用されたのだろう。
気配も辿れず、姿を確認する事も出来ないまま一方的に被弾した。
「くっ、壁際まで走れ!」
俺の号令を聞くまでも無く、既に動き出していたギードと羊は壁際へと駆け出していた。
だが。
「ちぃ、当然読まれてるよなぁ!?」
壁際に背を向け姿を構えると、アンデッドゴリラが待っていたとばかりに姿を現す。
その数三匹。
まだ姿を見せない大群は一体何匹控えている? いや、それよりもこの状況。
ただでさえ隣に陣取っているゴーストシープですら厄介だと思っていたのに、心読祈願持ちのアンデッドゴリラが目の前に三匹、後方に多数とか。
ここは素直に諦めてリスタートするか? 対策しとけば大した脅威ではないのに。
「ニンゲン、オレヲオイテドコカニゲルツモリナノカ」
あー、ギードは還せば何も問題無いけど、何そのつぶらな瞳!? ゴーストシープ、何かめっちゃ……可愛くは無いな、うん。
「いやね、どうにかしたいけど、本気で行動が読まれちゃってるみたいで攻めあぐねているの、わかるよね」
「私が圧倒的な身体能力で制圧する、か?」
「止めとけギード、鍛えた俺達人間よりも、心技体を備えた動物種が圧倒的に能力値は上だ。単純なAIしか持たないモブだからこそ、パターン入れて勝てるの、わかるよね?」
「それくらい理解ってる! 始まった瞬間から勝敗は対策をより練っている相手が、そして巻き返す一手を備えている方が必ず勝つ。だから」
おお、まさかギードさん? 何か隠し玉があるっていうのかい。
「相打ちでガンガン潰していく!」
「馬鹿だったっ!」
こんば馬鹿な会話しながらも未だ襲われないのは、制空権を展開しているがために踏み込んだら俺とギードに回避の有無を言わさず切り裂かれるというイメージを与え続けているからだろう。
実際、超近距離で正面160度くらいならばどうとでも対応してみせる自信はある。
ギードと二人で180度全てをカバーしている今、そう易々と踏み込ませるつもりはない。
ととと、の黄金の太陽ならば正面の三匹くらいシュンコロなのに、無差別範囲のせいで今は使用できない。
こんな大群相手だと、時の力を扱ったところで対策しているモブが混ざっているだろうし、もし対策しているモブが全くいなかったとしても、流石に『攻略法として意味が無い』。
そして、ふと一つの解へと思い至る。
「おい羊、お前一匹とアンデッドゴリラ一匹がぶつかったらどっちが勝つ?」
「オレヲナメルナ。ゴリラガカツ」
「……お、おう、なら十分な装備があったらどうだ?」
「ソウビ? ドウダロウカ、ドウグハツカッタコトガナイ」
「そうか、なら試しにコレを使ってあいつら三匹をぶっ飛ばしてみろ! 成功したらそのままソレはお前にやるからさ!」
「ム、何ダコレハ」
『スリープゴートの声帯首輪(テイムモンスター専用):この首輪をつけたモンスターは、鳴き声がメェと変化する。
OP:対象を睡眠にさせるスリープヴォイスの使用解放』
『無限伸縮紐(テイムモンスター専用):このリードを持つ限り、仲間被害を無効化する。
OP:高級革グリップ』
オプションの高級革グリップは、読んで字のごとく紐を引く持ち手部分が高級革で加工されているのである。
「良いから装備してくれ! そしてお前が今日から最強だ!」
睡眠的な意味で、とは心の中で思ったが羊には筒抜けだったようで。
「スイミンヲシハイスルカ、ワルクナイ」
首輪を身に着け、俺に無限に伸びていくリードを持たれながら意気揚々とアンデッドゴリラへとその力を開放する。
「メェェェェェ!」