170.ラストダンジョン(16)
大斧が振り下ろされた瞬間、そのタイミングを知っているかの如くゴーストシープが動いた。
完全にカウンター気味に懐に入り込まれたギードは、防御する間も無く鋭い二本の角に胴をえぐるように突かれていた。
ガンッ、と鈍い音と共に大きくノックバックするギードの安否を気にしながら、俺は咄嗟にロングスナイパーライフルを取りだしていた。
距離にして200mは軽く離れているが、このロングスナイパーライフルは純粋に1km先までカバー出来るFPS等で良く見る強武器なのだ。
スコープを覗き込み、十分に狙いを定めトリガーに指をかける。
「シッ!」
トリガーを捻る、思念だけをゴーストシープへ飛ばす。
すると、まるで俺の攻撃を読んでいたかのようにその姿からは想像も出来ない横跳びで着弾予想点から横移動をしてみせた。
やっぱりコイツ、普通のゴーストシープじゃない!?
「いつつ、何て馬鹿力だよ。あぁ、貰ったジャージが完全にボロボロだし、くそっ」
ギードは戦乙女の鎧をいつの間にか纏い、凌いでいたようだ。
そんなギードを他所に、ゴーストシープが離れた位置にいる俺を睨みつけてくる。
「ニンゲン、俺ヲ試シタナ」
気づいた時には目の前で口をもにゃもにゃ動かして語り掛けてくるゴーストシープ。
「しゃ、喋ったぁ!?」
「誤魔化スナニンゲン」
「あっ、はい。ダミーショットで試させていただきました」
何故敬語で喋らねばならん。
が、知能があるようだしここは穏便にいければいいな。
「アンナ殺気トバサレタラ、イマスゥグニシマツシテオキタイトコロダガ、オレニハカナワヌアイテカ」
俺は咄嗟にライフルでゴーストシープをヘッドショットしようと殺気飛ばしを放った。シミュレートして、弾道が着弾するかどうかを殺気で試すこの技術。
対象が避けるそぶりをみせなければ、そのままトリガーをひき命中率100%を確約してくれるが、逆に気づかれることがあればダミーとしてトリガーを引く手は停止する。
では、このゴーストシープは殺気を読み取ったというのだろうか? 否、そんな動き方では無かった。
ならば、思い当たるのは一つ。
「セイカイダニンゲン、オレハオマエタチノココロガヨメル」
だよなぁ。
心読がやっぱり影響している、か。
これ、下手すると時のヘルダンジョン並みの難易度になりえるんじゃないか?
「リカイアルニンゲン、オレヲツレテイクツモリハナイカ」
おぉ、テイム出来るのか。
悪くない誘いだけど、ギードはどう思うだろう?
「すまないっ! おい羊野郎、私が相手だ無視すんな!」
大斧で横一線。俺事巻き込む勢いで一閃するも、ゴーストシープは先読みして俺の足元に潜り込むように回避する。
って、俺が回避しにくいじゃねぇか!?
「うあぶっ、殺す気か!」
「わ、悪い。おいっ、そのポジションは私のだぞ!」
「ちげぇから、そしてちょっち落ち着け。こいつは知能持ってるタイプだわ」
「……知能あると美味しいジンギスカンになるのか?」
「食うなっ! それよりも」
「ニンゲン、コエガオオキイゾ。ホラミタコトカ、クルゾ」
「来るって、一体何が……っ!?」
一体何が来るのかと周囲に警戒を飛ばすと、多数のモブの気配。
それも統率のとられた動き、二息歩行、ここまで気配が感じ取れないような相手。
「アンデッドゴリラの群れかっ!」
「ヤツラハカシコイゾ、チュウイシロ」
「すげぇゾワゾワッてした、なぁ、これって少しやばくないか?」
ギードですら危機感を察知したらしい。
あぁ、俺もそう思うぜ? 何たって、俺達二人と一匹の思考が読まれている状況で大群に囲まれているのだから。
「ダメダ、心読タイサクガサレタ。ウカツニウゴケナイゾ」
くっ、ライフルを構える先から対象の気配が消えていく。
ギードも、気配を捉えては消える感覚にジリリ、と足踏みしせめあぐねているようだ。