017.ミスティックナイト(3)
「なん、だと……」
「なん、ですって!?」
「桜、気づいたか?」
「んん? 何の事?」
「何故驚いたし。いや、それよりもクロック、時計みて時計!」
俺がそう急かすと、桜は指をピンアウトしてみせるとみるみる顔色が青ざめていく。
「なん、ですって!?」
テイクツー。しかし、先ほどとは驚きの表情が全く違う。
念のための補足だが、アバターの表情は声色やゴーグルが筋肉の動きを読み取って多彩に変化する。
なので、現実の桜の表情もまさしく驚愕しているところだろう。
「まだ、まだ5分しか経ってないじゃない!?」
俺も時計を見た時に驚いた。三時間もの時間を費やしたかと思えば、実時間がたったの5分しか経過していなかったのだ。初回は数十分の没入が数時間だったり、このヘルダンジョンは何か異常だ。
「私、全然痩せれてないじゃん!」
「そこかい」
思わず突っ込みを入れると、桜の胸元に綺麗に決まる。
ポフンと不思議な効果音がなり、突っ込み判定は成功したようだった。
「いや、俺もそこかい」
「何一人でボソボソ言っているの? それにしても、こんだけ頑張ってたったの5分ってうち一気に疲れたわ……」
桜の装備は充実しており、これからが面白くなるだろう展開だが、確かに時間間隔のズレは想像以上に疲労していた。
「ん、2階層だけ味見したら今日は終わるか」
「まだやるのー?」
「きっと2階は激しくて、めちゃくちゃ運動出来るできっと」
「いこか」
疲れてるハズなのに、痩せる関係のワードがあれば脇目もふらないその志、嫌いじゃないぜ。
イイ:攻撃力20
装備:一角獣の牙 攻撃力10
OP:先端にある毒が塗ってある(攻撃ヒット時毒を付与)
防御力11
装備:抗いのマント 防御力1
OP:バックアタックによるクリティカル判定無効
体力7
魔力3
桜 :攻撃力11
装備:ガラスの灰皿 攻撃力1
OP:ヘッドショット時一定確立で即死
防御力11
装備:布の羽衣
体力4
魔力11
装備:輪廻のリング 魔力+1
OP:敵を倒すと魔力が1回復する
こんな具合に、桜は魔力をMAXに保っているし回復機能つきのリングを持っている。
俺はバックアタックで即死がなくなったし、毒というOPで属性による有利不利といったものを無視して敵を倒すことが出来る状態なのだ。
ここまできて、途中で落ちるなんて選択肢は俺達には最初から無かったのだ。
この決断が最初のミスの始まりだったなんて、この時は思いもしなかった。