166.ラストダンジョン(12)
カツン、カツンと甲冑でも着こんでいるような金属音を響かせながらこちらへと歩みを進める人影は、完全に光の柱から体を外へ出すと、光はふわりと拡散して粒子となり消え去った。
「あぶっ」
中央から外側へ向かって軽い突風が吹き荒れ、思わずフレアスカートの裾を抑えてしまう。
もう少しでトランクスが丸見えになるところだった、非常に危なかった。
「なぁ、やはり私とヤらないか!」
鼻を膨らませながら這うように近づいてくるギードの顔を手で制しながら、やっと重い腰を上げた。
「そんな冗談言ってないで、中ボスのおでましだぞ」
「……もぅ、つれないな。まぁ、こっちで私の欲求を満たさせてもらうかな!」
手をシュッシュして謎のアピールをしなさんな。
「アレ、何?」
流石に人型のシルエットしか見えなかった為、もうおなじみになりつつあるモノクルを取りだしソレを覗き込んでみた。
「んー、人だなぁ」
そう、人である。
鎧を着こんだ、男性。
敵意は感じ取れず、ただただゆっくりとこちらに近づいてくる。
「先手必勝?」
「まぁ待て」
クーコも敵意を感じ取れないためか、攻撃するのに躊躇しているようだ。
そしてギードも同様に、相手のやる気を感じ取れず破れたジャージを腕まくりをしてみせるも、キョトンと戦意を喪失してしまっていた。
「なぁ、アレが本当に私たちの敵なのか?」
そう聞かれましても、こういう部屋では出現した敵を倒さなきゃ次へ進めない。
そうこうしている内に、距離は裸眼でもハッキリ視認出来る程まで近づいてきている。
すると、ピタリと歩みを止めた鎧の男は口を開いた。
「ヤァヤァ、俺の相手をしてくれるのは君たちかい? スカート穿いた男一人に、ジャージ娘が二人と。んーやりにくいなぁ、特に女性には手をあげたくないんだ」
顎に手を当てながら、そんな台詞を吐く男を見て俺は直感する。
「まさか、プレイヤー?」
「ハッ、そういう言い方するって事は君もこちら側か。そっちの二人もそうなのかい?」
「いや、違う」
「そーかいそーかい、なら俺とお前の一騎打ちで良いんじゃね? 勝った方が生き残る、死んだ方はアイテム置いてマイルームに戻ってりゃ良い!」
実に楽し気に語りる男。
間違いない、RLのプレイヤーだコイツ。
でも、何故こんなダンジョンの中で敵キャラみたいに出て来やがる。
数百年ぶりに同じプレイヤーとの出会いがこのような形になるとは。
嬉しいような、嬉しくないような。
気分は複雑だが、師匠と別空間でだが最近あったばかりなので、やはりコイツとの出会いはそこまで嬉しくないな、うん。
「一応聞くが、お前さんは祈願したのか? したなら、何系か教えてくれよ、な?」
祈願したか、だって? 俺達プレイヤーはこの世界の住民ではない。
呪いの無い地球人は、RLプレイヤーには縁のない発言に聞こえた。
「ん、その様子じゃー祈願無しでNPC連れてるのかよ。プレイヤースキルだけでのし上がった系か、イイネ、燃えるじゃん」
何だ、その口ぶりは? まるで俺達プレイヤーも祈願できるようじゃないか。
「ちなみに俺はこの無敵鎧と無敵剣を祈願して、ついでに強敵と次々に叩けるように祈ったらこうして、ダンジョンで次々と戦闘出来るようになってさ、お前さんもどうだい? 今のままじゃ俺が楽しむ前に終わっちまうからさ、何か祈願しちゃってくれよ、な?」
何という自信家。
いや、そもそもコイツは何者だ? 地球が無くなっていることに気づいてない?
「その前に、お前は何者なんだ? 地球の事は理解してて、その上でPVPがしたいと?」
「あーそういや挨拶してなかったな、悪いな坊主。ちなみに地球は残念なことになったが、俺はこの世界で生きる事こそが人生だと思うぜ? あんな世界はクソくらいだ」
どうやら、俺の思考とは相いれないようだ。
「俺の名は才神神姫、親もよくもまぁ変な名前をつけてくれたもんだよなぁ。良くイジラレタよ全く。くそっ、イライラするあの世界の連中はよぉ! 俺はRLで狩って狩って、狩りまくって、あいつらをヤってやるんだ!」
突然、膨れ上がる憎悪。
目は血走り、無敵剣とか読んでいた剣を正面に向け構えてきた。
「てめーなんかに俺の気持ちがわかるわけねぇよなぁ! 気持ち悪いんだよお前」
憎悪に、怒りや憎しみの感情を察知したギードが俄然やる気を出すも、プレイヤー相手に二人を巻き込むつもりはない。
手で制すると、俺が行くと一歩前に出る。
「アァ! アァそうだ! ヤろうぜ、アッサリやられんじゃねーぞ雑魚がぁ!」
俺も同じように光大剣を構えると、二つの刃が交差する。