164.ラストダンジョン(10)
喋ってる隙に偽物二人は前衛後衛のポジショニングを整えると、氷剣を二刀流した偽ギードが襲い掛かってくる。
カンッ、と俺の光大剣とギードの篭手がそれぞれ襲い来る氷剣を受け止めるも、予想以上の力にジリッと僅かに後退してしまう。
「いや、ギードお前何力負けしてんの!?」
「いやいや、何というか私自身を殺るってのに抵抗が……」
「えいっ」
パシュ、と音がなったと同時に偽ギードが氷柱に包まれ氷漬けになってしまう。
抑え込まれていた力がフッと無くなった瞬間、間合いをあけるため再びバックステップ。
「なっ、私が氷漬けに!?」
「あれ、敵だからな?」
そんなやりとりをしながらも、後ろで控えていたクーコに視線をやると。
「うぇ」
思わず変な声が出てしまう。
どうやら、偽クーコも氷柱を放っていたようでクーコがモロにくらっていたようだ。
声も無く氷漬けになったクーコは微動だにしない。
対して偽ギードはパキッ、と氷の表面にひびが入りすぐさま抵抗して息を吹き返した。
破れたジャージから覗く篭手を纏った拳が一直線にそんな偽ギードに伸びるも、瞳が光ったと同時に隠し武器が偽ギードの手元から飛び出しギードの突き出した腕が宙を舞う。
「くっ」
そんな呻き声をあげながらもギードも負けずと隠し武器を射出して偽ギードの額を貫いていた。
同時にドロッ、と音を立て大量の出血が地面に流れ落ちた。
「マジック! 氷の癒し・アイスリカバー」
すぐに使用出来たクーコの力でギードの切断された腕を氷漬けにして止血すると、後衛に居た偽クーコ目掛けて駆け出す。
こちとらオリジナルと既に戦闘経験があるんだよ!
氷の礫が大気中にいくつも生成され、空間罠として進路を遮るも、俺は馴染みの技を使う。
「傍殺」
マルムの祈願、WYを視認した相手に使用し瞬時に背後に現れ、真っすぐに刺突するだけの方法だが、効果は非常に高い。
俺がまっすぐ進んでくると正面に構えていた偽クーコが目標を失い、一瞬動きが止まった正に一瞬で俺は躊躇することなく偽クーコの胸を背から貫いていた。
「クーコ、ギード、動けるか!?」
俺が声を投げかけ時には、クーコも自力でやっと氷柱から脱出し、ギードも片膝をつきかけていたが何とか踏ん張っていた。
「時間が無い、走れ!」
次の階層の扉は未だ視界には無い。
ただ、氷から脱出したクーコの胸元は既に弾け飛び、ジャージのチャックの耐久力も次の巨大化には耐えきれないだろう。
そして切断された腕を拾い上げるギードも、身長が伸びが停止して何故か胸元が膨らみだしていた。
うん? 男だよな、お前さん。
いや、そんな考察はどうでもいい、今は走るのが優先だ!
俺も体の膨張が先ほどから止まらない。主に股間がヤバい。
通常ならば、全身が巨大化してダンジョン内で圧死するだろう仕組みのはずなのに、抵抗した結果体の一部だけが巨大化してはじけ飛びそうになるとは、恐るべし240リミット第三階層。
「見えたっ、とびこめぇぇぇ!」
俺の体内時計が、後1秒で股間が下着を突き破ると警鐘を鳴らしていたが、俺達はギリギリのところではじけ飛ぶ前に扉をくぐることが出来た。